「予実管理」の正しいやり方とは?売上目標達成を加速するための方法

本記事は2025/07/31に更新しております。
「予実管理」の正しいやり方とは?売上目標達成を加速するための方法
多くの中小企業で予実管理が実施されていますが、予算と実績を比較するだけに終わり、目標が達成しなかったり、経営改善につながらなかったりするケースが少なくありません。本来、予実管理は課題を明確にし、改善アクションにつなげる行動変革ツールとして機能すべきものです。限られたリソースで効率的な事業運営を行うためには、予実管理を未来の行動を変えるツールとして活用することが重要となります。
本記事では、予実管理が形骸化しやすい原因を明らかにし、成果に直結させるための5つのステップと、精度と効率を高める実践テクニックを解説します。

01

予実管理が形骸化する原因と克服の必要性

多くの企業で予実管理が形骸化し目標達成につながらないのは、いくつかの典型的な要因があるためです。まずはその原因を把握し、改善への第一歩を踏み出しましょう。

根拠の薄い予算設定

「前年より〇%上乗せ」「業界平均並み」などの感覚的な目標では、数値で比較ができません。非現実的な予算は従業員の達成意欲向上にはつなげられず、運営も機能しないでしょう。

実績把握の遅れと不正確さ

月末締めの翌月中旬に数字が出るような状況では、迅速な対策が打てません。集計ミスや曖昧な計上基準で算出したデータも、正しい経営判断を妨げる要因となります。

表面的な差異分析

予実管理が形骸化する原因のひとつに、予算と実績の差異の原因を確認しかしないことがあげられます。数字上の表面だけを見てしまい、原因まで掘り下げないケースです。例えば、売上減少の原因が価格やチャネル、営業活動のどこにあるのかを具体的に特定できなければ、改善策を出しても意味がありません。

具体的なアクションへの落とし込み不足

営業強化、コスト削減といった抽象的な方向性は出るものの、誰が、いつまでに、何を実行するのかが不明確では、改善が進まず同じ問題が繰り返されます。

予実管理の属人化

経理部門や一部管理職だけが予実管理を行う属人化が進むと、現場の各部門が当事者意識を持っていない状況が発生します。数字の背景にある実情が経営判断に活かされず、組織全体の改善活動も進みません。

次章では予実管理を成果につなげる体系的な5つのステップを解説します。

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02

目標達成を加速する!成果につながる予実管理5ステップ

予算と実績を比較するだけでは、目標達成にはつながりません。形式的な予実管理を脱却し、成果を生むためには、体系的かつ実践的なプロセスが大切です。
本章では、予実管理を成功に導く5つのステップを紹介し、それぞれを効率的に進めるためのポイントと実践方法を解説します。

5ステップの全体像

ステップ1:【予算策定】根拠のある達成可能な目標設定

予実管理の基盤となる予算策定の質が、その後の差異分析や改善策の実効性を左右します。達成可能かつ挑戦的な目標にするために、次の5つの視点をおさえましょう。

過去実績の徹底分析

3年分の月次データを使い、季節変動や成長トレンドを把握し、前年比だけでなく商品・顧客・チャネル別の推移を分析することで、現実的な予測が可能になります。

内部・外部環境の考慮

自社の生産能力や営業力、市場動向、競合、法改正、経済情勢などを踏まえ、予算へ適切に反映します。社内外の変化へのスピーディな対応を意識しましょう。

現場との連携

トップダウンとボトムアップを組み合わせ、営業や現場の実態に即した目標設定を行うことで、実行力のある計画を立てられます。

目標とKPIの設計

売上や利益などの結果指標だけでなく新規獲得数、顧客単価向上率、商談件数、受注率などのKPIを設定し、細かく進捗管理をします。

アクションプランとの同期

営業施策や商品戦略、コスト管理など、目標を達成するための具体的な施策を合わせて設計することで、数字とアクションの乖離を防ぎます。

【予算策定時の考慮ポイント】
項目 具体例 ポイント
過去実績分析 売上、利益、顧客単価、費用実績 季節性、トレンド、特異点の洗い出し
外部環境分析 市場成長率、競合動向、法改正、経済状況 自社への影響度、機会と脅威の特定
内部環境分析 生産能力、人員構成、技術力、営業力 リソースの制約と強み、改善余地の把握
経営戦略 事業拡大、新製品投入、コスト削減 全社目標との連動、戦略的投資の予算化
KPI連動 新規顧客獲得数、リピート率、成約率 行動指標の明確化
アクションプラン 営業・マーケティング施策、コスト削減策 具体的な行動計画を策定

ステップ2:【実績把握】スピードと正確性が命!タイムリーな実績収集体制の構築

予算達成に向けた進捗管理には、正確かつタイムリーな実績収集が不可欠です。データの遅れや誤りは、分析の質を低下させ、正しい経営判断が困難になります。次の4つのポイントをおさえましょう。

実績収集のルール化と責任の明確化

実績管理を安定化するため、集めるデータの種類や担当者、収集方法を明確にし、部門ごとに責任者を設定します。

システム連携による自動化

会計ソフト・販売管理システム・SFA(営業支援システム)・CRM(顧客管理システム)などと連携し、実績データを自動で収集・集計できる仕組みを構築します。手入力を極力減らし、作業時間の短縮とデータの正確性向上の両立を図ります。

正確性を担保するチェック体制

自動化しても、チェック体制は必須です。異常値の検出、元帳や請求書との照合などにより、データの信頼性を高め、後の分析精度の向上につなげます。

速報値と確定値の使い分け

月次の予実管理では、完璧な数値を待つのではなく、速報値を活用して前もって意思決定を行い、確定値で微調整することで、判断のスピードと精度のバランスを取ります。

ステップ3:【比較・差異分析】なぜ差が出たのかを表面的に終わらせない深掘り術

予実管理の本質は、数字の差を捉えるだけでなく、なぜその差が出たのかを掘り下げることにあります。原因を特定し、次のアクションへつなげることが重要です。

多角的な要因分解

売上差異を単価や数量、構成などの要因に分解し、さらに顧客商品、地域単位に細分化することで、どの要素が最も業績に影響しているかを明らかにします。

要因分析例
商品名 売上差異(合計) 単価要因 数量要因 構成要因 その他要因
商品A ▲50万円 +20万円 ▲10万円 ▲60万円 なし
商品B +30万円 ▲10万円 +5万円 +35万円 なし
全体 ▲20万円 +10万円 ▲5万円 ▲25万円 なし
【各要因の解説】
単価要因:商品単価の上昇や下降による影響(例:値引き、値上げ)
数量要因:売れた個数の増減による影響(例:販売件数の減少)
構成要因:売れ筋商品の比率が変わったことによる影響(例:高単価商品の販売比率が減少)
その他要因:突発的・外的な要因による影響(例:災害、制度変更)

ポジティブ差異の分析重視

予算を上回る成果についても偶然なのか再現可能なのかを検証し、成功要因を特定しましょう。他の商品や地域に展開できれば、組織全体の業績向上につながります。

定量データと定性情報の組み合わせ

数値だけでなく、営業現場の声や顧客からのフィードバックや市場のトレンドを加味し、数字に現れない要因を補完して分析します。

外部要因と内部要因の切り分け

コントロールできる内部要因と市場環境の変化などの外部要因を分けて捉えましょう。内部要因には改善策や外部要因には適応策を講じる必要があります。

時系列での変化パターン把握

単月の結果にとらわれず、数ヶ月間単位で推移を観察して傾向を掴みます。一時的なぶれなのか、構造的な変化なのかを見極めることで、対策を講じましょう。

ステップ4:【課題特定・評価】分析結果から打つべき手を見極める

差異分析で原因が見えたら、次は課題を具体化し優先順位をつけて打つべき手を明確にしましょう。最も効果的な対策を選ぶための評価基準を整理します。

課題の具体化

売上の上下だけではなく、製品の新規顧客数の予算比30%減など、測定可能な数値で課題を特定することで、次に何をすべきかが見えてきます。

評価軸に基づいた優先順位づけ

特定した課題の重要度や緊急度、解決可能性を評価し、対応の優先順位を以下表のように決定します。

優先順位 課題例 重要度
(業績へのインパクト)
緊急度 解決可能性
(自社対応力)
対応の方向性
1 主要顧客の離脱 ★★★ 大 ○中 最優先で対応
2 新規リード獲得不足 ★★☆ 中 ◎高 早期に施策検討
3 特定部門の経費超過 ★☆☆ 小 ◎高 中長期で対応
【各指標の解説】
重要度:売上や顧客満足など業績へのインパクト
緊急度:対応の猶予があるかどうか
解決可能性:自社リソースで現実的に対応できるかどうか

根本原因の見極め

売上減少は単なる結果に過ぎず、背景となる商品力低下や営業力不足、市場変化への対応の遅れなどの根本原因を調べることが大切です。表面的な問題だけでなく、本質的な課題を抽出し適切な対策を講じましょう。

ステップ5:【アクションプラン策定・実行】やりっぱなしにしない改善活動への落とし込み

予実管理の目的は数字の確認ではなく、業績向上につながる施策を実行することです。特定した課題に対して、確実に対策の打てる改善策を立案し、実践できる施策にしなければ効果は得られません。

5W1Hで行動計画を具体化

誰が、何を、いつまでに、どのように行うのかを行動レベルまで落とし込むことが大切です。5W1Hの設定で責任範囲を定めることで実行力を高めます。
例えば、以下のような責任範囲を定めることで実行へ移します。6月10日までに、宣伝広告部が担当となり、化粧製品のターゲット層向けに、A/Bテストを実施したWeb広告を新たに5本出稿する…など。

進捗を見える化する仕組みと軌道修正

やりっぱなしを防ぐため、週次、月次でレビューを行い、柔軟にアクションプランを調整できる体制を整えます。

効果測定と評価

施策の効果を定量データで検証し、売上への影響や顧客満足度や業務効率の改善を評価します。
例えば、以下のように表現です。

・売上:前年比+10%増加
・商談成約率:25%から30%へ改善…など。

成功事例・失敗事例の共有

実行結果から得た知見を組織内で共有し、継続的な改善を促します。勉強会やナレッジ共有ツールの活用が有効です。

次期予算策定へのフィードバック

予実管理で得た気づきを次期の予算策定に活かしましょう。予算精度の向上やKPI設定の見直し、データ収集方法の改善などPDCAサイクルを回しながら、予実管理自体の品質を継続的に向上させることが可能です。

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03

中小企業が予実管理の精度と効率を高めるための実践テクニック

予実管理の基本ステップを実践するだけでなく、継続的に精度と効率を高めることが重要です。シンプルかつ実行しやすい仕組みを構築することで、確実な運用を進めましょう。
本章では、実際の予実管理業務で活用できる具体的なテクニックとツールの使い方を解説します。

管理単位(粒度)を適切に設定する(全社・部門別・事業別・製品別など)

予実管理をどの粒度で行うかは、管理コストと効果のバランスを考慮して決定する必要があります。細かすぎると運用負荷が増え、逆に粗すぎると重要な気づきを見落とします。業績に影響が大きい軸を優先的に管理し、無駄を省いた運用を心がけることが重要です。

主要な管理単位と目的
管理単位 主な目的・活用シーン
全社レベル 経営判断・資金繰り・金融機関報告
部門・事業別 事業ごとの収益性評価・リソース配分
商品・サービス別 利益貢献度の測定・戦略転換の判断
顧客セグメント別 重点顧客戦略・営業効率化
地域・チャネル別 販売ルート強化・収益性比較

全社レベル

経営判断や財務報告のための最上位管理単位です。売上高や営業利益、当期利益などの主要指標を月次管理し、経営全体の状況を把握し資金計画に活用します。

事業部門別管理

事業部や部門ごとの収益性や課題を把握し、リソース配分の最適化と部門間連携の強化を図ります。

商品・サービス別管理

主力商品や新商品、高収益商品など、商品特性に応じた管理を行います。商品ライフサイクルの段階に応じて管理指標を変えることで、適切な販売戦略や開発戦略の立案が可能です。

顧客セグメント別管理

顧客セグメント別管理とは、既存と新規別であったり、大口と小口だったりと、顧客属性に応じた管理方法です。主要顧客別の個別管理も取り入れ、営業戦略の改善につなげます。

地域・チャネル別管理

店舗・ECなどの各販売チャネルの収益性や効率性を比較分析することで、強化すべき販売ルートを特定します。

中小企業では、まず全社レベルでの管理を確実に行い、次に業績への影響が大きい軸から段階的に管理粒度を細かくしていくアプローチが有効です。

Excelやスプレッドシートでの限界を認識し、ツールの活用を検討する

多くの企業が予実管理にExcelやスプレッドシートを活用していますが、事業規模の拡大や管理項目の複雑化に伴い、運用形態には限界が見えてきます。Excelを最大限活用しつつ、適切なタイミングで専用ツールへの移行を検討しましょう。

Excelやスプレッドシート運用の工夫
①テンプレートの標準化 定型フォーマットや入力規則を活用し、ミスを削減する
②関数・マクロの活用 SUMIF、XLOOKUP、ピボットテーブルやマクロで分析を効率化する
③グラフによる可視化 数値の傾向を視覚的に把握する
④バージョン管理の徹底 ルールを明確化し、共同作業時の混乱を防ぐ

システム化検討のタイミング

次のような状況が見られたらツール導入を検討しましょう。

  • データ量が増え処理速度が低下している
  • 複数の同時作業でファイル競合やバージョン管理が煩雑になっている
  • 手作業によるミスが頻発している
  • リアルタイム集計や高度な分析を求められている
Excelやスプレッドシートと専用ツールの機能比較
項目 xcel運用 専用ツール
データ収集 手入力・CSVインポート 自動連携
リアルタイム性 手動更新 即時反映
データ正確性 人的ミスのリスクあり・バージョン管理が煩雑 自動集計・チェック機能
可視化・分析 手作業で作成・複雑な分析が煩雑 ダッシュボード・多様なレポート機能
共有・連携 ファイル共有の制約・同時編集が困難 クラウド連携・共有権限管理
拡張性 複雑な要件や規模拡大への対応が困難 柔軟なカスタマイズと拡張が可能

中小企業向けツール選定のポイント

予実管理ツールを選定する際は、以下の点を考慮しましょう。

①導入・運用コスト イニシャルことやランニングコストやオプション費用はスモールスタートが可能か
②システム連携 会計・販売管理システムとの連携が容易か
③操作性 専門知識不要で直感的に使えるか
④レポート機能 必要な切り口で柔軟にレポート作成できるか
⑤サポート体制 導入支援やトレーニングが充実しているか

定期的な予実レビュー会議の実施と効果的な進め方

予実管理の成果を最大化するには、定期的なレビューの場で差異分析の結果を共有し、課題を特定したうえで、次のアクションへつなげることが大切です。 そのためには、単なる報告会で終わらせず、目的意識をもった会議設計と運営が重要です。

次の5つのポイントを取り上げています。

1.参加者の適切な選定

経営陣や部門責任者、実務担当者などの必要なメンバーを過不足なく選定し、多角的な視点を確保します。例えば、特定の立場に偏らない議論を促すために、関係部署以外の担当者を含める、必要に応じて外部の専門家から助言を得るなどの工夫も有効です。人数が多すぎると議論が散漫になり、少なすぎると視点が偏るため注意が必要です。

2.アジェンダの事前共有

会議の目的や論点を明確にし、必要なデータを事前に共有することで、場当たり的な進行を防ぎます。

予実レビュー会議進行フロー

3.データ分析結果の効果的な共有

数値の羅列ではなく、ポイントを絞って視覚的にわかりやすく説明します。グラフや図表を活用し、参加者が直感的に全体像を把握できるよう工夫しましょう。

4.問題解決志向の議論

会議では、責任追及ではなく、課題解決に向けた建設的な議論を徹底します。ファシリテーターが主導し、原因を深掘りしながら具体的なアクションにつなげます。

5.会議後のフォローアップ

決定事項の明文化、アクションプランの進捗確認、次の会議での振り返りなど、PDCAサイクルを回すためのフォローアップを徹底することで、会議の成果を最大化します。

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まとめ

予実管理は単なる数字の比較ではなく、目標達成に向けたアクションを加速させるための強力な経営ツールです。予実管理の本質は過去の結果から学び、未来の行動を変えることです。
本記事では、予実管理を成果に直結させるための実践的なステップを解説しました。
特に中小企業では、管理単位の適切な設定やツールの活用と定期レビューの工夫が重要です。管理単位の設定とツールの活用を実践することで、経営判断の精度向上や課題の早期発見、資金繰りの安定化、組織の目標意識向上につながります。
本記事で紹介した方法を取り入れ、予実管理を単なる数字合わせから目標達成のための強力な武器へと進化させてみてください。
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この記事を書いた人

赤峯豪
BtoB専門ライター。通信事業会社・大手IT企業で16年間、BPR(業務プロセス改革)や予算管理業務に携わる。在職中に独学で簿記2級を取得。DX・RPAを含むオペレーション改善を幅広く企画・実行。その後、売上高1,300億円規模の経営企画・予算管理業務に従事。ライター転身後は、BtoB向け記事、ホワイトペーパー、LPの執筆・制作を中心に手がけている。
佐藤大輔
監修
佐藤大輔

長年、経理業務に携わり、毎年の店舗の水道光熱費の使用料や過剰に使用している店舗への注意喚起などを促し赤字店舗の改革に努めた。また、企業のDX導入にも携わり、職員勤怠の電子化など、業務効率化を積極的に推進。現在は、企業コラム記事などを中心に年間100記事ほど執筆・監修を行っている。

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