先行事例に学ぶ!地域特性を活かした自治体DXの取り組み

本記事は2025/09/24に更新しております。
先行事例に学ぶ!地域特性を活かした自治体DXの取り組み
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、地方自治体が抱えるさまざまな課題を解決する可能性を秘めています。しかし、他の自治体の事例を模倣するだけでは成果は出ません。 本記事では、地域の特性を活かした先行事例を分析し、自治体がDXを成功に導くための行政運営のヒントをお伝えします。

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なぜ今、自治体DXが「待ったなし」なのか? ~背景と国の動向~

2050年には日本の総人口が1億人を下回るとの予測があり、特に、地方における労働力不足は、行政サービスの維持そのものを困難にしかねないほど深刻な状況です。

今後、急速な人口減少が見込まれる中、総務省が公表した「自治体DX推進計画」では、自治体が持続可能な形で行政サービスを提供していく必要性が強調されています。

これは単なる業務の電子化に留まるものではありません。DXの本質は、デジタル技術やデータを活用して、住民一人ひとりのニーズに合った質の高いサービスを創出し、同時に、業務を効率化することで生まれた人的資源を、人でなければできない創造的な業務へと再配分することにあります。

具体的には、総務省は「自治体デジタル・トランスフォーメーション (DX)推進計画 【第4.0版】」の中で、重点取組事項として以下の項目を挙げています。

・自治体の情報システムの標準化・共通化
・マイナンバーカードの普及促進・利用の推進
・行政手続のオンライン化
・AI・RPAの利用促進
・テレワークの推進
・セキュリティ対策の徹底

限られた資源の中で、多様な行政課題に対応し、住民の幸福を最大化していくために、自治体DXは待ったなしの状況にあります。

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「地域特性」を無視したDXは失敗する ~画一的導入の罠~

自治体DXの重要性が叫ばれる一方で、その推進が必ずしも順風満帆に進んでいるわけではありません。特に見受けられるのが、他の自治体の成功事例や国が推奨するツールを、自らの地域の特性を深く分析することなく、そのまま導入しようとするケースです。

都市部の成功事例をそのまま山間地域に持ち込んでも、期待した効果が得られるとは限りません。都市部と中山間地域では、人口密度、高齢化率、主要産業、住民の情報リテラシー、さらには、コミュニティの在り方まで、あらゆる前提条件が異なります。

自治体DXの失敗パターンとして、他にも以下のようなものが挙げられます。

・ITの知識資源格差(デジタルデバイド)への配慮不足
・地域産業との連携不足}
・既存システムとの不整合

真に実効性のある自治体DXを推進するためには、地理的条件や産業構造、人口構成、文化資本といった地域特性を深く理解し、そこから導き出される独自の課題と強みを正確に把握する必要があります。

画一的な模倣ではなく、自らの地域に最適化されたDX戦略を描くことこそが、成功への第一歩といえるでしょう。

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【分野別】地域特性を活かした自治体DX 先行事例集

ここでは、全国の自治体の中から、独自の地域特性を活かして成果を上げているDXの取り組みを、分野別に紹介します。単に「何をしたか」ではなく、「どのような地域特性を」「どのように活かしたか」という視点で分析していきましょう。

住民サービス向上分野

住民に最も身近な行政サービス分野では、地域の人口構成や地理的条件に応じた、きめ細やかなDXが求められます。

事例①:過疎地域におけるオンライン行政手続き・相談窓口と移動支援連携

高齢化が進み、役場へのアクセスが困難な住民が多い中山間地域では、デジタル技術が物理的な距離を克服する強力な武器となります。

福島県西会津町では、国のデジタル専門人材をCDO(最高デジタル責任者)として登用し、市全体でDXを進めています。

オンラインでの政策議論の場の設置や、地域の公共交通と連携したMaaS(Mobility as a Service)の導入により、高齢者の移動を支援しつつ、必要な行政サービスを届ける取り組みが進められています。これは、地理的制約という課題を、デジタル技術を用いて住民の利便性向上に転換した好例といえるでしょう。

事例②:子育て世代が多い都市部における手続きワンストップ化と情報プッシュ通知

一方、子育て世代が多く流入する都市部では、多忙な住民の時間をいかに節約するかが重要となります。デジタル庁は「書かないワンストップ窓口」の取り組みを推進しており、引越しや子育て、介護に関する手続きを一度で済ませられるよう、システム構築を進めています。

東京都渋谷区では、LINE等のコミュニケーションツールを活用し、煩雑な保育園の入園手続きをオンライン化したり、個々の家庭状況に応じた予防接種や健診の情報をプッシュ通知で届けたりするサービスを展開しています。これにより、住民は24時間いつでも手続きが可能となり、職員の窓口業務も削減されました。

住民層の特性とニーズを的確に捉え、最適なデジタルツールを選択した事例です。

地域産業振興・活性化分野

地域の基幹産業や独自の資源をデジタル技術で磨き上げ、新たな付加価値を創出する取り組みも活発化しています。

事例①:特産品(農水産物)のスマート農業化・販路開拓支援

農業や漁業が盛んな地域では、スマート技術の導入が生産性向上と担い手不足解消のカギとなります。

宮崎県新富町では、町が設立した地域商社が中心となり、ドローンやセンサーを活用したスマート農業を推進。収穫量や品質のデータを蓄積・分析し、生産技術の向上に繋げています。さらに、オンラインマーケットを通じて全国に販路を拡大し、生産者の所得向上を実現しました。

事例②:歴史的街並みを活かした観光DX

歴史的な街並みや文化遺産も、DXによって新たな魅力を発信できる貴重な地域資源です。

長崎県雲仙市では、火山や伝統的建造物群といった観光資源の情報をデジタル化し、観光客がスマートフォンで現地の歴史や文化を深く学べるVRコンテンツを提供しています。また、観光客の周遊データや消費データを分析し、新たな体験型コンテンツの開発や、閑散期の誘客戦略に活かしています。

出典:雲仙市観光ナビ「360度パノラマビュー」
出典:雲仙市観光データオープン協議会「雲仙市観光全域データオープン化活用事業」

防災・減災分野

頻発する自然災害から住民の命と暮らしを守るため、防災分野におけるDXは喫緊の課題です。

事例:災害リスク(水害、土砂災害等)に応じたリアルタイム情報共有・避難誘導システム

過去に大規模な災害を経験した自治体では、その教訓を活かした防災DXが進んでいます。

岩手県では、LINEを活用した避難所の開設・混雑状況の共有や、ドローンによる避難呼びかけの実証実験を行っています。また、三重県志摩市では、ドローン、AI、スマートグラスを組み合わせた救助支援システムを導入し、災害現場の情報を指揮本部とリアルタイムで共有することで、迅速な救助活動を可能にしています。

庁内業務効率化・働き方改革分野

住民サービス向上の原資となるのは、効率的で生産性の高い組織です。庁内業務のDXは、その土台作りの一環です。

事例:複数拠点を持つ自治体におけるペーパーレス会議・電子決裁システム

本庁舎以外に複数の支所や出先機関を持つ自治体にとって、紙ベースの業務は非効率です。

神奈川県庁では、知事決裁を含む全庁的な電子決裁を推進し、ペーパーレス化を加速させました。また、北海道日高町では、各課にコンパクトスキャナーを設置し、紙で受け取った書類もスムーズにデータ化して電子決裁に回せる仕組みを構築。これにより、意思決定のスピードが向上し、職員が場所にとらわれずに働けるテレワークの土台も整備されました。

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我が自治体でDXを成功させるための5ステップ

先行事例から見えてくるのは、DXの成功が単一の要因によってもたらされるものではないという教訓です。首長のリーダーシップ、職員の意識、適切な技術選定、そして住民や事業者との協働など、複数の要素が有機的に連携することで成功につながります。ここでは、管理職が主導してDXを成功に導くための具体的な5つのステップを解説します。

Step1: 地域課題の棚卸しとDXビジョンの明確化

DX推進の第一歩は、自らの地域を客観的に知ることから始まります。人口動態や産業構造、財政状況などの統計データや、住民アンケートの結果などを基に、地域の現状と課題を徹底的に「棚卸し」しましょう。
課題が明確になったら、次に「DXによって、この地域を5年後、10年後にどのような姿にしたいのか」というビジョンを策定します。このビジョンは、単に「業務を効率化する」といった抽象的なものではなく、「オンライン手続きの利用率を〇〇%向上させ、窓口の待ち時間を平均〇分短縮する」といった、具体的で測定可能な目標(KPI)を伴うべきです。

明確なビジョンとKPIがあって初めて、DXは組織全体の羅針盤となり得ます。

Step2: 推進体制の構築と「巻き込み力」

DXは、情報システム部門だけの仕事ではありません。全庁を挙げて取り組むべき経営改革であり、その推進には強力な体制が不可欠です。

総務省の「自治体DX推進計画」でも、首長の強いコミットメントのもと、副市町村長などをCIO(最高情報責任者)に据え、全庁横断的な推進体制を構築することが推奨されています。

しかし、役職者を任命するだけでは組織は動きません。ここで管理職に求められるのが「巻き込み力」です。

・職員に対して:DXのビジョンを丁寧に共有して当事者意識を醸成し、各部署の推進リーダー選出や若手の意見登用を進める。
・住民に対して:ワークショップや意見交換会を通じて計画段階から参画を促し、本当に求められるサービスは何かを共に考える。
・地域事業者に対して:地元のIT企業等と連携して新サービスの共同開発や実証実験を行い、DX推進と地域経済の活性化を両立させる
職員、住民、事業者をDX推進の当事者として、巻き込んでいきましょう。

Step3: スモールスタートとアジャイルな改善

最初から全庁規模で大規模なシステムを導入しようとすると、莫大なコストと時間がかかるだけでなく、失敗したときのリスクも大きくなります。

まずは、成果が出やすく、かつ多くの職員や住民が効果を実感しやすい特定の分野に絞って小さく始めてみましょう。これをPoC(概念実証)と呼びます。

PoCを通じて、導入したツールの有効性や課題を検証し、利用者からのフィードバックを基に、改善を繰り返します。

そうしてPDCAを回していくことで、リスクを最小限に抑えながら、現場のニーズに合った実用的なシステムを着実に育てていきます。

小さな成功体験の積み重ねは、職員の自信につながりますし、さらなるDXへの機運も醸成されるでしょう。

Step4: データ利活用基盤の整備とセキュリティ確保

DXを推進していくと、庁内の様々な部署やシステムにデータが蓄積されていきます。これらのデータを部署の壁を越えて連携・分析し、政策立案や住民サービス向上に活かすための仕組みを整備していきます。

その際の選択肢として、国は「ガバメントクラウド」を提供しています。これは政府共通のクラウドサービス利用環境で、自治体が個別にシステムを構築・運用するコストを削減し、システムの標準化・共通化を促進することを目的としています。

出典:デジタル庁「ガバメントクラウド」

一方で、データの利活用を進める上で絶対に疎かにしてはならないのが、個人情報保護とサイバーセキュリティの確保です。マイナンバーカードの活用拡大や行政手続きのオンライン化が進む中、住民のデータをいかに安全に守るかは、行政に対する信頼の根幹に関わる問題です。

常に、最新の脅威を想定したセキュリティ対策を徹底し、住民が安心してデジタルサービスを利用できる環境を整備することが、行政の責務といえます。

Step5: 継続的な人材育成とスキルアップ

DX推進の成否を最終的に左右するのは「人」です。しかし、多くの自治体でデジタル人材の不足が深刻な課題となっています。外部から専門家を登用することも有効な手段ですが、それと同時に、内部の職員を継続的にいく必要があります。

総務省やJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)では、自治体職員向けの多様な研修プログラムを提供しています。

こうした機会も積極的に活用し、組織全体のITスキルを継続的に高めていきます。

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まとめ

人口減少や多様化する住民ニーズといった地方自治体が抱える構造的な課題に対し、デジタル技術の活用はもはや避けて通れない道です。
ポイントは、DXを単なるツールの導入と捉えず、継続的な「経営改革」として位置づけることです。データに基づいて地域を深く理解し、明確なビジョンを描き、職員・住民・事業者を巻き込みながら、小さな成功を積み重ねていきましょう。

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この記事を書いた人

永瀬よしつぐ
Webライター。BtoB領域を専門とし、主にクラウドインフラ、SFA/CRM、ECに関する記事の執筆を手がける。これまで10社以上のBtoB企業のオウンドメディア立ち上げ・運営に従事。メルマガ、LP、SEO記事など発信媒体に合わせ専門領域の技術を分かりやすく解説し、BtoBマーケティングのリード獲得をサポートする。
田中雅人(ITコンサルタント
監修
田中雅人(ITコンサルタント

ソフトウェアメーカー取締役、IT上場企業の取締役を経て、現在、合同会社アンプラグド代表。これまでに、Webサイト制作、大規模システム開発、ECサイト構築、SEM、CRM、等のWebマーケティングなど、IT戦略全般のコンサルティングを30年以上実施。現在は、大手上場企業から中小企業まで、IT全般のコンサルティングを行っているかたわらWebマーケティングに関するeラーニングの講師、コラム執筆なども実施。

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