ナレッジマネジメントの基本と実践方法~個人の知識を組織の力に!~

本記事は2025/07/31に更新しております。
ナレッジマネジメントの基本と実践方法~個人の知識を組織の力に!~
企業の競争力を高めるためには、個人が持つ知識や経験を組織全体で活用する「ナレッジマネジメント」の仕組みづくりが大切です。しかし、多くの中小企業では業務が属人化し、特定の従業員に依存するケースも少なくありません。その結果、退職や異動によって業務が滞り、企業の成長を妨げるリスクが生じることがあります。

本記事では、ナレッジマネジメントの必要性やメリット、スモールスタートで始める実践方法、おすすめナレッジマネジメントツールについて詳しく解説します。

01

「あの人がいないと仕事が進まない…」はなぜ起こる?ナレッジマネジメントの必要性

企業活動において、特定の従業員に知識やノウハウが集中する状態を意味する「属人化」。中小企業では、ひとりの従業員が複数の業務を兼任することも多く、属人化が起こりやすい傾向にありますが、こうした課題を解決する鍵となるのが「ナレッジマネジメント」です。
ここでは、業務の属人化を防ぐためのナレッジマネジメントの必要性をみていきましょう。

属人化のリスク

属人化が進むと、次のようなリスクが生じます。

・業務の停滞:退職や異動により業務が滞る
・コンプライアンスの問題:ひとりの判断に依存し、不正チェックが機能しない
・ノウハウが継承されない:長年培った知識や技術が次世代に受け継がれない

属人化が進むと、その人が不在になるだけで業務が停滞し、他のメンバーでは対応できないという事態が起こりやすくなります。また、コンプライアンス違反や企業の競争力低下にもつながる可能性があるため注意が必要です。
属人化を防ぐためには、知識の見える化と共有を積極的に行う「ナレッジマネジメント」の体制づくりが欠かせません。

形式知と暗黙知

ナレッジマネジメントを進めるうえで重要となるのが、次の2つの知識の形です。

・形式知:マニュアルや資料など、文書化された知識
・暗黙知:経験や勘に基づく知識

業務上のノウハウやコツの多くは、暗黙知に分類されるため、どのようにして形式知として整理・共有するかが重要です。

ナレッジマネジメントは、こうした個人の知識を組織全体で共有し、活用するための仕組みです。
導入に関するお問合せ

02

ナレッジマネジメントとは?目的と中小企業が得られるメリット

ナレッジマネジメントとは、社員一人ひとりが知識やノウハウを体系的に管理し、組織全体で共有・活用することで企業の競争力を向上させる経営手法です。知識の「創造・蓄積・共有・活用」という4つのプロセスを循環させることで、組織の知的資産を最大化します。
単に情報を集めるだけでなく、業務改善やイノベーション創出に役立てることが、ナレッジマネジメントの本来の目的です。ここでは、ナレッジマネジメントの代表的な手法と、取り組むことで得られるメリットをご紹介します。

ナレッジマネジメントの代表的な手法

ナレッジマネジメントの実践において代表的な手法のひとつが、一橋大学名誉教授・野中郁次郎氏によって提唱された「SECIモデル」です。

このモデルは、個人の中にある言葉では表しにくい知識(暗黙知)を、文書やマニュアルなど誰でも理解できる形(形式知)へと変換するプロセスを体系的に示したものです。

SECIモデル図解

ナレッジマネジメントのメリット

ナレッジマネジメントの目的は、知識を効果的に活用することで、組織全体の生産性を高めることです。中小企業がナレッジマネジメントを導入すると、次のようなメリットが期待できます。

業務効率向上

過去の事例やノウハウが共有されることで、業務を行う際の調査時間が短縮され、重複作業や手戻りを減らせます。従業員からの問い合わせ対応なども効率化できるため、本来の業務に集中する時間を増やせることもメリットです。

人材育成の効率化と早期戦力化

業務マニュアルや成功事例、FAQを整備することで、新人や経験の浅い従業員でも短期間で業務知識を習得できます。体系的なOJTが可能になり、教育コスト削減と即戦力化にもつながるでしょう。

意思決定の迅速化と質向上

過去の成功事例や失敗事例、市場データを容易に参照できるようになるため、勘や経験に頼らない、データに基づいた客観的な意思決定が可能になります。

イノベーション促進

部署や担当者の垣根を越えて、多様な知識やアイデアを共有することで、新たな発想やビジネスモデル、商品・サービスの開発が促進されます。こうした取り組みは、イノベーションが生まれやすい組織風土をつくる上でも効果的です。

顧客満足度向上

顧客からの問い合わせに対して、誰でも迅速かつ的確に対応できるようになります。また、過去のクレーム対応事例や顧客ニーズに関する情報が共有されることで、より質の高いサービスを提供でき、顧客満足度の向上にも寄与します。

導入に関するお問合せ

03

中小企業がナレッジマネジメントで失敗する典型的なパターン

ナレッジマネジメントは、業務の効率化や人材育成、組織力の強化に大きな効果をもたらす一方で、導入・運用に失敗してしまう企業も少なくありません。特に中小企業では、人的・時間的リソースが限られているため、導入時の判断ミスや運用の工夫不足が、かえって業務の混乱を招くこともあります。
ここでは、中小企業が陥りがちな失敗のパターンとその背景について解説します。

ツール導入が目的化する

中小企業でよくある失敗は、ナレッジマネジメントのツール導入自体が目的となってしまうケースです。高機能なナレッジマネジメントシステムを導入しても、業務に活用されなければ投資が無駄になります。

「何のために情報を共有するのか」「どのような知識を共有するのか」といった目的や方針が明確でなければ、ツールの効果は発揮されません。

また、現場のITリテラシーや業務フローに合わない複雑なシステムを選んでしまうと、結果的に使われなくなる可能性もあります。

ナレッジマネジメントの本質は、知識を活かして組織の力を高めることであり、ツールはそのための手段であると認識し、目的を見失わないことがポイントです。

運用負荷が高い

ナレッジの共有が、従業員にとって「負担」となってしまうと、運用は長続きしません。複雑な入力フォームや煩雑な承認プロセスを設けると、本来の業務に加えて追加の作業が発生し、従業員の抵抗を招きます。その結果、古い情報ばかりが蓄積され、実用性が低下します。

効率よく、誰でも簡単に使える運用設計が、定着と成果を生むためには不可欠です。

組織文化との不整合

ナレッジマネジメントは、「知識を共有することに価値がある」という意識が組織に根付いていなければ、うまく機能しません。競争意識が強く、個人が情報を独占する風土があると、積極的なノウハウの共有が期待できません。

また、経営層がナレッジ共有の重要性を強調しても、それが評価や報酬に反映されていないと、従業員のモチベーションが上がらず定着が難しくなるでしょう。

ナレッジを共有することが当たり前になるような文化づくりと、それを支える制度設計が重要といえます。
導入に関するお問合せ

04

【4ステップで始める】中小企業向けナレッジマネジメント実践ガイド

中小企業がナレッジマネジメントを成功させるためには、大規模なシステム導入よりもスモールスタートで着実に成果を積み重ねることが重要です。
ここでは、ナレッジマネジメントに初めて取り組む場合でもすぐに実践できるように、導入から運用、改善までを4つのステップで解説します。

ステップ1:目的と対象ナレッジの明確化

最初に行うべきは、ナレッジマネジメントを導入する目的と、「どの知識を共有すべきか」という対象の明確化です。

目的の例として、次のようなものが挙げられます。

・新入社員の即戦力化
・クレーム対応の標準化
・営業ノウハウの共有
・技術継承の促進

重要なのは、測定可能で具体的な成果を設定することです。例えば、「新人研修期間を30%短縮する」「問い合わせ対応の平均時間を20%削減する」など、数値で評価できる目標を定め、導入効果を検証すると良いでしょう。

また、次のような対象となるナレッジも具体的に定義しましょう。

・業務マニュアル
・成功事例
・顧客情報
・FAQ
・技術文書
・営業資料
最初は目的に直結する優先度の高いナレッジから着手し、成果が出た段階で対象範囲を徐々に拡大していくと効果的です。

ステップ2:ナレッジの「見える化」と「共有」の仕組みづくり

次に、対象となるナレッジの可視化の方法と、蓄積・共有方法を決定します。形式知として整理する主な手段は、以下の通りです。

・文書化:業務マニュアル、成功事例など
・動画化:技術習得、接客スキルなど
・フローチャート化:業務プロセスなど
共有方法は、すでに社内にあるツールを活用すると効率的です。
・社内サーバや共有フォルダ
・社内Wiki
・ビジネスチャットツール
・クラウドストレージ

新しいツールの導入は、既存の環境で対応しきれなくなった段階で検討しても十分対応できます。

また、ナレッジを細かく収集するためには、インタビューの実施や業務プロセスマッピングの活用を通じて、成功・失敗事例をストーリーとしてまとめると、他の従業員も理解・活用しやすくなるでしょう。

ステップ3:運用ルールの策定と周知徹底

ナレッジマネジメントを継続的に運用するためには、シンプルで実行可能なルールを設定し、周知することが重要です。
・情報を登録する担当者の明確化
・更新頻度の設定
・記録フォーマットの統一

ルールは複雑すぎると形骸化しやすいため、従業員が負担に感じない範囲でシンプルに設計しましょう。

また、ルールを浸透させるためには、研修や説明会を実施し、実際の操作方法なども理解してもらうことが重要です。

ステップ4:実践・効果測定・改善のサイクルを回す

実践のフェーズでは、まずは小さな範囲で始め、以下の手順で効果を測定しながら、継続的に改善していきましょう。

・特定の部署やプロジェクトで試行
・定量的な測定指標の設定
 (例)アクセス数、登録件数、問い合わせ対応時間の短縮率、新人の習得期間など
・従業員からのフィードバック収集
・PDCAサイクルを回し、運用改善
実際の利用状況や従業員の意見をもとに、運用ルールや仕組みを継続的にブラッシュアップすることで、ナレッジマネジメントの定着が図れます。
導入に関するお問合せ

05

成功の鍵は「ツール」より「文化」!ナレッジ共有を促進する仕掛け

ナレッジマネジメントの成功には、ツールの導入だけでなく、「知識を共有することが価値ある行為である」という組織文化の醸成が重要です。そのためには、管理職による積極的な関与や、従業員が自然にナレッジを発信したくなるような仕掛けづくりが欠かせません。
ここでは、ツールに依存せず、現場にナレッジ共有を浸透させるためのポイントを解説します。

管理職が果たすべき役割

ナレッジ共有を企業文化として定着させるためには、管理職が率先して実践し、模範となることが大切です。過去の経験や失敗から得た教訓もオープンに語ることで、組織内に「共有することが価値になる」という意識を浸透させられます。

また、日頃の声かけや評価面談でナレッジ共有の意義を伝え、実践した従業員を適切に評価することも重要です。

さらに、人事評価にナレッジ共有の項目を設けることで、文化として定着しやすくなるでしょう。

ナレッジ共有促進の仕掛け

知識共有を促すには、制度や仕組みを通じて、発信しやすい雰囲気や関係性を築くことが欠かせません。例えば、定期的な勉強会や事例共有会を開催し、各部署や個人の知識・ノウハウを共有する場を設けることで、知識を自然にやり取りできる環境が生まれます。

そのほか、積極的にナレッジを発信した従業員を表彰する制度を導入することで、共有への動機づけを強化できます。

金銭的な報酬に限らず、社内での承認や感謝の気持ちを表現することで、従業員のモチベーション向上につながるでしょう。
導入に関するお問合せ

06

中小企業でも導入しやすい!おすすめナレッジマネジメントツール

近年は、中小企業でも手軽に導入・運用できるナレッジマネジメントツールが増えてきました。コストを抑えつつ、情報の整理・共有・活用を効率化できるツールを選ぶことで、業務の属人化を防ぎ、生産性向上や人材育成にもつながります。

中小企業に特におすすめのナレッジマネジメントツールには次のようなタイプがあり、それぞれ機能や特徴が異なります。

社内Wiki型

情報を体系的に整理・蓄積できるツールです。知識を一元管理し、検索や編集ができるため、業務マニュアルや社内FAQの作成に適しています。

ツール 特徴 月額費用 無料プラン
DocBase シンプルなUI、マークダウン・リッチテキスト対応、同時編集機能 900円~
(3人まで)
30日間
NotePM 強力な検索機能、マニュアル作成に強い 4800円~
(8人まで)
なし
esa 同時編集機能、入力補助機能、編集しながらプレビュー可能 500円~/
1ユーザーあたり
2か月間
Qiita Team シンプルなエディタ、テンプレートが豊富 500円~/
1ユーザーあたり
7日間

ビジネスチャット型

リアルタイムで情報を共有できるツールです。チーム内での相談や部署間の連携にも適しています。

ツール 特徴 月額費用 無料プラン
Slack 外部アプリとの連携、カスタマイズ性が高い 500円~/
1ユーザーあたり
基本機能無料あり
Chatwork 国内シェアが高い、タスク管理機能の充実 700円~/
1ユーザーあたり
100人まで
LINE WORKS LINEと同様の操作感、スマホ利用に適している 500円~/
1ユーザーあたり
30人まで
有償プラン30日間トライアルあり
Microsoft Teams Microsoft Officeとのシームレスな連携 Microsoft
365に含まれる
1か月間

ファイル共有・ストレージ型

社内資料を一元管理できるツールです。バージョン管理やアクセス制限の機能により、情報の整理と共有に役立ちます。

ツール 特徴 月額費用 無料プラン
Dropbox
Business
スピーディな同期、多様なアプリ連携に対応 1,500円~
(5人まで)
30日間
Google
Drive
Googleアプリとの連携、共同編集、一元管理 800円~/
1ユーザーあたり
15GBまで
Box 高度なセキュリティ機能、容量無制限 1,980円~/
1ユーザーあたり
個人用のみ
OneDrive Microsoft Officeとのシームレスな連携 Microsoft
365に含まれる
個人用5GBまで

グループウェア型

スケジュール管理やワークフローなど複数の機能を統合したツールです。業務プロセスの改善や社内システムの一元化に活用できます。

ツール 特徴 月額費用 無料プラン
サイボウズ
Office
使いやすさ重視、カスタマイズ可能 600円~/
1ユーザーあたり
30日間
Google
Workspace
Gmail、カレンダー、ドライブなど統合 800円~/
1ユーザーあたり
14日間
Microsoft
365
Office、Teams、OneDriveなど統合 899円~/
1ユーザーあたり
1か月間
CrewWorks オールインワン機能、構造化して自動で整理 400円~/
1ユーザーあたり
100人まで

ナレッジマネジメントを効果的に運用するには、自社の目的に合ったツールを選ぶことが重要です。選定時のポイントとして、次の点を考慮しましょう。

・どのような課題を解決するかを明確にする
・現場の従業員が無理なく使えるかを確認する
・予算に収まる範囲で導入可能か検討する
・運用時のサポート体制をチェックする
導入に関するお問合せ

07

事例紹介:ナレッジ共有で組織力が向上した中小企業3選

最後に、ナレッジマネジメントに成功し、具体的な成果を上げた中小企業3社の成功事例をご紹介します。
いずれの企業も自社に合ったナレッジ共有の仕組みを構築し、業務効率や対応力、売上といった具体的な成果につなげています。自社での導入を検討する際の参考として、ご一読ください。

製造業A社 技術継承の成功事例

従業員数約50名の製造業A社では、熟練技術者の定年退職を機にナレッジマネジメントを導入。技術者の作業手順を動画で記録し、品質チェックのポイントを文書化することで、技術の標準化を進めました。

この取り組みにより、新人の技術習得期間が従来の6か月から3か月に短縮され、円滑な技術継承が実現しています。

サービス業B社 顧客対応力向上

ITサポートを手がけるB社では、顧客からの技術的な問い合わせ対応にばらつきがあることが課題でした。そこで、過去の対応事例をカテゴリー別に整理し、社内Wikiで共有することで、従業員の対応力が向上しました。

その結果、平均対応時間が40%短縮され、一次対応での解決率が60%から85%へと改善。迅速な対応が可能となったことで、顧客満足度の向上にもつながった事例です。

小売業C社 売上向上を実現

全国に20店舗を展開する、小売業のC社では、売上の好調な店舗のノウハウが多店舗に十分に共有されていないことが課題でした。改善策として、月次の成功事例共有会を開催し、販売テクニックや陳列方法をビジュアル化して共有する仕組みを導入しました。

この取り組みにより、全店舗の平均売上が15%向上し、従業員のモチベーションにも貢献。成功事例の共有によって全体の販売力が底上げされ、会社の成長につながっています。
導入に関するお問合せ

08

まとめ

ナレッジマネジメントは、中小企業が個々の持つ知識を組織の競争力へと変えるための重要な経営手法です。属人化のリスクを回避し、業務効率化や人材育成の促進につながります。

導入の際には、明確な目的を設定し、段階的に導入しながら改善を重ねることが重要です。また、知識を積極的に共有する文化を醸成することが欠かせません。最初は既存のシステムを活用し、スモールスタートで着実に成果を積み上げることで、無理なく取り組みを進められます。

特に、管理職が率先してナレッジ共有の重要性を理解し、全従業員が安心して情報を提供できる環境を整えることが、組織全体の力を底上げする第一歩となるでしょう。
導入に関するお問合せ

09

Slopebaseとは

バックオフィス業務の
支出管理を支援する、
支出管理クラウド

Slopebase スロープベース

※バックオフィス業務とは経理や総務、人事、法務、財務などといった直接顧客と対峙することの無い社内向け業務全般を行う職種や業務のこと

導入に関するお問合せ

この記事を書いた人

赤峯豪
BtoB専門ライター。通信事業会社・大手IT企業で16年間、BPR(業務プロセス改革)や予算管理業務に携わる。在職中に独学で簿記2級を取得。DX・RPAを含むオペレーション改善を幅広く企画・実行。その後、売上高1,300億円規模の経営企画・予算管理業務に従事。ライター転身後は、BtoB向け記事、ホワイトペーパー、LPの執筆・制作を中心に手がけている。
北川 希
監修
北川 希

デジタルマーケティングやIT領域を中心に、年間200本超のライティング、100本以上の編集を担当。特に基幹業務系ソリューションやITインフラ、情報セキュリティに関する技術解説や導入メリット、導入事例に精通し、企業のDX推進や業務効率化に関する専門記事を多数執筆。行動経済学の知見をベースに、専門的なテーマでも初心者から専門職層まで伝わる記事作成・編集を実施。

人気記事

カテゴリ