ABC分析で在庫管理を最適化し、利益を増やす方法

本記事は2025/09/08に更新しております。
ABC分析で在庫管理を最適化し、利益を増やす方法
「売れているはずなのに、なぜか利益が出ない」
「倉庫がいっぱいで新商品の置き場がない」
「在庫管理に時間がかかりすぎて本業に集中できない」


このような悩みを抱えている中小メーカーの販売担当者の方も多いかと思います。売上は順調に伸びているのに、手元にお金が残らない、在庫の山で倉庫の保管スペースが足りない、どの商品に注力すべきかわからず管理工数だけが増えている、といった課題は中小メーカーならではの深刻な問題です。

これらの問題の多くは、「どの商品が本当に儲かっているのか」「どの商品が足を引っぱっているのか」が見えていないことが背景にあります。

本記事では、このような在庫管理の悩みを解決する強力な分析手法「ABC分析」について、Excelで簡単に実践できる具体的な手順から、分析結果を実際の利益改善につなげるアクションプランまで、わかりやすく解説していきます。

01

ABC分析とは?パレートの法則を活用した分析手法

ABC分析とは、一言で言うと、「たくさんある商品の中から本当に重要な商品を見つけ出し、優先順位をつけて効率的に管理するための分析手法」です。

ABC分析は19世紀に提唱されたパレートの法則をベースとしています。パレートの法則とは、もともと「2割の富裕層が国全体の収入の8割を占めている」という収入分布を表す法則でしたが、今では様々なビジネスシーンで確認されています。

在庫管理においても、このパレートの法則は、当てはまることが多く、以下のような現象がよく見られます。

・2割の商品が売上の8割を生み出している
・2割の得意先が売上の8割に貢献している
・2割の主力商品が利益の8割をもたらしている

ABC分析の目的は、この「重要な2割」を正確に特定し、限られた経営リソースを最も効果的に配分することです。具体的には、管理の効率化、在庫削減によるキャッシュフロー改善、重要商品の欠品防止による売上機会の確保、といった効果が期待できます。

導入に関するお問合せ 資料請求

02

ABC分析の基礎知識

指標の選び方

ABC分析では一般的に「売上高」を指標として商品をランク分けします。売上高は企業の収益に直接的に影響する最も重要な指標であり、どの商品が会社の業績に大きく貢献しているかを明確に示してくれるからです。

但し、分析の目的によっては他の指標を使用した方が適切な場合もあります。例えば、以下のようなケースが考えられます。

1 販売数量を指標とする場合

食品メーカーで日持ちのしない商品を扱っている場合

高単価商品の売上高が大きくても、実際の販売個数が少なければ、大量生産によって在庫の山を抱えるリスクがあるため。

2 利益額を指標とする場合

「売上は大きいが利益率が低い商品」と「売上は小さいが利益率が高い商品」が混在している場合

売上高での分析では、真の貢献度が見えません。利益額を指標とすることで、本当に会社の利益に貢献している商品を特定できます。

自社の商品の傾向に合わせ、最も目的に適う指標を選択しましょう。

商品をA・B・Cランクに分類する

ABC分析では、すべての商品を重要度に応じてA・B・Cの3つのランクに分類。します。一般的な分類基準と管理方針は以下の通りです。

Aランク(売れ筋・最重要)

・累積売上構成比:0~70%
・全商品数に占める割合:約20%

Aランクは、絶対に欠品させてはいけない重点管理対象です。在庫は潤沢に保ち、需要予測の精度向上や販促活動の強化に注力。します。

Bランク(中間)

・累積売上構成比:70~90%
・全商品数に占める割合:約30%

Bランクは、定期的な在庫チェックを行い、安定した管理を心がけます。Aランク昇格やCランク降格の可能性を常に検討。します。

Cランク(重要度が低い)

・累積売上構成比:90~100%
・全商品数に占める割合:約50%

Cランクは在庫削減の対象です。発注停止の検討、在庫処分、セット販売による消化促進などを検討。します。

例えば、金属加工部品メーカーの場合、Aランクには「標準ネジ」「汎用ベアリング」「定番ワッシャー」などの大量消費される基本部品が分類され、Cランクには「特注サイズのボルト」「限定用途の特殊金具」「旧型機械用の補修部品」などが、分類されることが多いでしょう。

導入に関するお問合せ 資料請求

03

Excelを活用したABC分析の具体的な手順

ABC分析は統計学の深い知識がなくても、Excelの基本的な関数だけで簡単に実行できます。ここでは、中小メーカーでよく扱われる電子部品を例に、具体的な手順を解説していきます。

ステップ1:データを収集する

まず、ABC分析に必要なデータを収集し、Excelで整理します。最低限必要なデータは以下の通りです。

必要なデータ項目

・品目コード:商品を一意に識別するためのコード
・品目名:商品名
・期間売上高:分析対象期間(通常は直近1年間)の売上高

これらのデータを、販売管理システムや会計ソフトから抽出します。システムがない場合は、売上台帳や請求書データから手作業で集計する必要があります。

※分析期間の設定について
一般的には直近1年間のデータを使用しますが、季節変動が大きい商品を扱っている場合は、最低でも1年間、できれば2年間のデータを使用することをお勧めします。新商品や廃番予定商品が多い場合は、6ヶ月間のデータでも十分な精度で分析できます。

Excelでのデータ整理では、1行目に項目名(品目コード、品目名、売上高)を入力し、2行目以降に各商品のデータを入力していきます。

この時、売上高の列は必ず数値形式で入力し、文字が混入しないよう注意しましょう。

ステップ2:各商品の売上構成比を計算する

データの準備ができたら、次は各商品の売上構成比と累積構成比を計算します。

手順1:売上高の降順並び替え

まず、売上高の列を基準にして、データ全体を降順(大きい順)に並び替えます。Excelの「データ」タブから「並び替え」を選択し、売上高の列を基準に降順で設定します。

手順2:売上構成比の計算

D列に「構成比」という項目を追加し、D2 に次の数式を入力して下方向へコピーします。

=C2/SUM($C$2:$C$7)

この数式により、各商品の売上高が全体に占める割合が計算されます。セル書式を「パーセンテージ」に設定しておくと見やすくなります。

手順3:累積構成比の計算 E列に「累積構成比」という項目を追加し、E2 に次の数式を入力して下方向へコピーします。

=SUM($D$2:D2)

この数式により、上から順番に構成比を累積していった値が計算されます。ドル記号($)を使うことで、数式をコピーした時に参照範囲が正しく調整されます。

実際の計算例を見てみましょう。

電子部品メーカーでの分析例

ステップ3:ABCランクへ分類する

累積構成比が計算できたら、いよいよABCランクへの分類を行います。

一般的な分類基準

・Aランク:累積構成比 ~70%
・Bランク:累積構成比 70~90%
・Cランク:累積構成比 90~100%

F列に「ABCランク」という項目を追加し、以下のIF関数を使って自動分類します。

=IF(E2<=0.7,"A",IF(E2<=0.9,"B","C"))

この表を棒グラフで可視化すると以下のようになります。

但し、この分類基準は業界や会社の状況によって調整する必要があります。例えば、競争が激しい業界では重点管理すべき商品の範囲を広げるために、Aランクを80%まで拡大する場合もあります。逆に、リソースが限られている中小企業では、Aランクを50%に絞り込んで、より集中した管理を行う場合もあります。

上記はあくまで目安とし、自社の状況に合わせて柔軟に調整してください。

導入に関するお問合せ 資料請求

04

ABC分析の結果を「利益」につなげる具体的なアクションプラン

ABC分析をしただけでは何も変わりません。ここでは、それぞれのランクで取るべき具体的な行動を詳しく解説します。

Aランク(売れ筋)「欠品を防止し販促を強化する」

Aランクの商品は会社の売上・利益の大部分を支える重要な商品です。これらの商品で欠品が発生すると、売上機会の損失だけでなく、顧客の信頼失墜にもつながる可能性があります。

以下のように管理していきます。

1 重点的な在庫管理の実施

Aランク商品については、発注点管理の精度を高め、安全在庫の見直しを定期的に行いましょう。例えば、汎用ICチップのような電子部品であれば、通常の安全在庫に加えて、納期遅延リスクを考慮した追加在庫の保有も検討すべきです。

2 需要予測の精度向上

過去の販売データを詳細に分析し、季節変動や顧客の購買パターンを把握して、より正確な需要予測を行います。

3 販促活動の強化

Aランク商品については、営業活動や広告宣伝の重点対象とし、さらなる売上拡大を図ります。展示会での重点展示、カタログでの優先掲載、営業担当者への商品知識研修の実施などが有効です。

Bランク(中間)「管理を効率化しAランク昇格を狙う」

Bランク商品は安定した売上を支える中核商品群です。過度な投資は避けながらも、安定した管理を継続し、Aランク昇格の可能性を常に検討します。

1 定期的な在庫チェック

月1回程度の頻度で在庫状況をチェックし、過不足がないか確認します。標準コンデンサや基板用抵抗器のような汎用部品の場合、需要の変動を早期に察知して、適切な在庫調整を行うことが重要です。

2 発注ロットの見直し

在庫回転率と発注コストのバランスを考慮して、最適な発注ロットを設定します。小ロット多頻度発注と大ロット低頻度発注のどちらが有利か、定期的に検証することをお勧めします。

3 ランク移動の検討

四半期ごとにABC分析を実施し、Bランク商品の動向を監視します。売上が伸びてAランク昇格の兆候を示している商品については、Aランク商品と同等の管理体制に移行する準備を進めます。

Cランク(重要度が低い)「在庫削減を検討する」

Cランク商品は売上への貢献度が低く、在庫として抱えることでキャッシュフローを圧迫している可能性があります。状況に応じて在庫削減と整理を勧めましょう。

1 発注停止・中止の検討

Cランク商品については、新規発注を停止し、現在の在庫で販売終了とすることを検討します。特注サイズのボルトや限定用途の特殊金具など、需要が限定的な商品については、発注中止による在庫削減効果が大きいでしょう。

2 在庫処分の実施

長期滞留している在庫については、セール価格での販売や、場合によっては廃棄処分も検討します。廃棄による損失と保管コストを比較検討し、合理的な判断を行いましょう。

3 セット販売やセールによる消化促進

売れにくいCランク商品を、人気のAランク商品とセットにして販売したり、割引セールを実施したりすることで、在庫消化を促進します。

Cランク商品の中にも、少量ながら安定した需要がある商品や、特定の重要顧客にとって必要不可欠な商品が含まれている場合があります。機械的にすべてを削減対象とするのではなく、顧客への影響も考慮しましょう。

導入に関するお問合せ 資料請求

05

ABC分析をより良く活用するためのポイント

ABC分析を効果的に活用し続けるためには、一度実施したら終わりではなく、継続的な改善と他の分析手法との組み合わせが重要です。

①定期的に見直しを実施する

市場環境は常に変化しており、顧客のニーズや競合状況、経済情勢などによって商品の重要度も変動します。そのため、ABC分析は定期的に実施し、管理方針を見直す必要があります。

見直し頻度の目安

・四半期ごと:ランクの変動チェック、大きな変化があった商品の要因分析
・半年ごと:分類基準の見直し、新商品・廃番商品の反映
・年1回:全体的な戦略見直し、他の分析手法との組み合わせ検討

具体例を挙げると、新型コロナウイルスの影響で医療機器関連部品の需要が急増した際、従来Cランクだった商品が一気にAランクに昇格する、といったケースが考えられます。

このような急激な変化を見逃さないためにも、定期的な見直しは欠かせません。

②他の指標と組み合わせる

ABC分析だけでは見えない側面を補うために、他の分析指標と組み合わせて活用することをお勧めします。

例えば、以下の例が考えられます

在庫回転期間

売上高は大きいが在庫回転期間が長い商品は、実際には資金効率が悪い可能性があります。ABC分析と在庫回転期間の分析を組み合わせることで、「真に効率的な商品」を特定できます。

季節による変動

季節性のある商品については、年間を通じたABC分析だけでなく、季節別のABC分析も実施することで、より精密な在庫管理が可能になります。

複数の指標を考慮することで、ABC分析の精度と実用性をさらに高めることができるでしょう。
導入に関するお問合せ 資料請求

06

まとめ

ABC分析とは、パレートの法則を活用して商品を重要度別にA・B・Cランクに分類し、それぞれに適した管理方針を実行することで在庫最適化と利益改善を実現する分析手法です。 Excelの基本的な関数だけで簡単に実施でき、統計学の深い知識がなくても効果的な結果を得られる点が強みです。
ABC分析で自社商品の販売状況を把握して、効率的な在庫管理と利益向上を実現していきましょう。
導入に関するお問合せ 資料請求

07

Slopebaseとは

バックオフィス業務の
支出管理を支援する、
支出管理クラウド

Slopebase スロープベース

※バックオフィス業務とは経理や総務、人事、法務、財務などといった直接顧客と対峙することの無い社内向け業務全般を行う職種や業務のこと

導入に関するお問合せ 資料請求

この記事を書いた人

永瀬よしつぐ
Webライター。BtoB領域を専門とし、主にクラウドインフラ、SFA/CRM、ECに関する記事の執筆を手がける。これまで10社以上のBtoB企業のオウンドメディア立ち上げ・運営に従事。メルマガ、LP、SEO記事など発信媒体に合わせ専門領域の技術を分かりやすく解説し、BtoBマーケティングのリード獲得をサポートする。
田中雅人(ITコンサルタント)
監修
田中雅人(ITコンサルタント)

ソフトウェアメーカー取締役、IT上場企業の取締役を経て、現在、合同会社アンプラグド代表。これまでに、Webサイト制作、大規模システム開発、ECサイト構築、SEM、CRM、等のWebマーケティングなど、IT戦略全般のコンサルティングを30年以上実施。現在は、大手上場企業から中小企業まで、IT全般のコンサルティングを行っているかたわらWebマーケティングに関するeラーニングの講師、コラム執筆なども実施。

人気記事

カテゴリ