MDMで重要なのは、表記ゆれや重複を見つけて削除することではありません。新しい表記ゆれや重複が発生しにくい仕組みをつくることです。そのためには、データを整理する前に、正しいマスタとは何かを定義する必要があります。
「正」の定義を決めることから始める
正式名称の書き方のルール、法人番号などの必須項目、コードの採番の仕方、そして取引が終わったデータの廃止の扱いを、あらかじめ明確に定義します。たとえば取引先マスタなら、正式な会社名を登録すること、法人番号を管理すること、略称は別項目で扱うことなどを決めます。商品マスタなら、型番を必須項目とし、規格や単位の表記方法を統一するといった基準が必要です。
ここが曖昧なままデータを整理しても、担当者ごとの主観で入力が続き、時間がたつうちに再び表記ゆれや重複が発生してしまいます。
クレンジングと名寄せの違いを理解する
データ整備では、クレンジングと名寄せが混同されがちですが、それぞれ目的が異なります。クレンジングはデータの表記やフォーマットを統一する作業であり、名寄せは同一の実体を持つ複数のデータをひとつに統合する作業です。
| 項目 |
クレンジング |
名寄せ |
| 目的 |
データの表記を統一する |
同一データをひとつに統合する |
| 作業例 |
(株)を株式会社に統一、全角半角の統一、不要なスペースの削除 |
株式会社○○と(株)○○を同一企業と判定し統合 |
| 対象 |
文字や書式 |
データそのもの |
「株式会社ABC」と「(株)ABC」を、どちらも「株式会社ABC」に統一しても、それだけではデータが2件存在する状態は変わりません。重複を解消するには、それらを同一企業と判断し、ひとつのマスタに統合する名寄せが必要です。
名寄せを行う際は、同一実体かどうかを判断する判定キーを設定します。取引先であれば、法人番号を軸に正式社名や本社住所、電話番号を組み合わせて判定するのが基本です。商品であれば型番やJANコードなど、一意に識別できる情報が重要になります。
ここで注意したいのが、すべてを自動で統合しないことです。「株式会社山田商事」と「山田商事株式会社」は同一企業の可能性が高い一方、「山田商事東京」と「山田商事大阪」は別会社として扱う必要がある可能性があります。自動判定だけで統合すると、異なる企業を誤ってひとつにまとめてしまうリスクがあります。
そのため実務では、システムが重複候補を抽出し、管理者が内容を確認したうえで承認してから統合する段階的な運用が安全です。統合後は、旧コードと過去の取引履歴が正しくひも付くよう、マッピング情報(統合前後のコードの対応関係を記録した情報)を残しておくことも欠かせません。
「作らない」と「見つける」を両輪で整備する
表記ゆれや重複を防ぐには、登録後の整理だけでは不十分です。重複をつくらせない仕組みと、万が一発生した場合に早期に見つける仕組みの、両方を整えることが重要です。
新規登録の際、入力した会社名や法人番号と一致する既存データがあれば自動的に表示する機能を設ければ、担当者が気づかないまま重複登録してしまうケースを減らせます。必須項目や入力形式を統一することで、表記ゆれそのものも発生しにくくなります。一方で、人が入力する以上、重複を完全になくすことは現実的ではありません。
四半期や半期ごとに重複候補を確認し、不要なデータを整理する運用もあわせて必要です。MDMは一度整備すれば終わるプロジェクトではなく、データ品質を継続的に維持する活動と捉えることが重要です。
整備対象の優先順位の付け方
理想をいえば、すべてのマスタを一度に整備したいところですが、現実には時間や人員に限りがあります。まずは、業務への影響が大きいマスタから優先的に取り組むことがポイントです。
多くの企業では、複数部門で使う取引先マスタや、売上・在庫に直結する商品マスタから着手すると、効果を得やすくなります。すべてのデータを対象にする必要もありません。取引先マスタなら売上が上位の主要取引先、商品マスタなら直近1年以内に動きのある商品など、休眠データを除いた範囲から始めれば、初期の整備工数を抑えながら短期間で効果を得やすくなります。MDMに必要なのは、大がかりなシステム導入ではなく、優先順位を決めて小さく始め、継続的に改善を重ねていく進め方です。