当社が2026年に実施したPoCには9社が参加しています。このうち、紙の運用を課題に挙げていた5社をご紹介します。検証を終えた企業、検証中の企業、要件の確認を終えて検証を待つ企業が含まれます。内訳は製造業3社、商社1社、教育1社です。
先にお断りしておきます。紙の枚数や所要日数の削減効果は、参加9社のいずれでも計測前の段階です。導入後の数値を示せないため、この章では「紙のままだった状態」と「何を見て次へ進めたか」に絞ってお伝えします。また、企業名を開示する同意が得られていないため、業種と規模のみの記載としました。以下の数字は、いずれも検証の入口で確認した現状の値です。
| 業種・規模 |
対象の帳票 |
紙のままだった状態 |
電子化のために決めたこと |
| 製造業(食品)/従業員約70名 |
トラブル発生報告書 |
手書き。回覧用の押印欄が14、完了までの工程が8つ、同じ顔ぶれを2周(1枚あたり28回の受け渡し) |
発生報告と完了報告を2本のワークフローに分け、入力内容を引き継ぐ |
| 製造業(建設機械)/従業員15名 |
請求書、社内共有事項、社内規定 |
紙でその都度回覧。社内規定の原本は社長の席の後ろに1部のみ |
ルートを作り込むより先に、いま誰の手元で止まっているかを見えるようにする |
| 商社/従業員約400名・全国20拠点(対象は商品物流本部の約20名) |
手書きの青い伝票2種類、協力費確認書 |
紙伝票の内容を基幹システム(AS/400)へ人が打ち直し。Excelに入力して印刷する運用 |
システム発行の赤い伝票は後回しにし、青い伝票2種類から着手。取引先の操作は4つに限定 |
| 教育(学習塾運営)/従業員約220名 |
各拠点から本部へ届く生徒情報のExcel |
各拠点が作成したExcelを、本部で再度Excelに二重入力 |
拠点をまたぐ帳票を優先。1枚あたりの節約が拠点数だけ積み上がる |
| 製造業(食品)/正社員約520名 |
有給申請 |
既存のワークフロー製品にユーザー数無制限で月額10万円(年120万円)。使い勝手に不満を抱えたまま固定費化 |
費用と使い勝手の両方を見直す前提で、対象帳票を絞って再検証 |
【製造業・従業員約70名】押印欄14の報告書が、同じ顔ぶれを2回まわる
社内で起きたトラブルを記録する報告書が、手書きで運用されていました。回覧用の押印欄は14です。内訳は、社長、常務、品証部長、社長室長、製造部長までで5欄。続いて業務次長、製造次長、業務参与、製造参与の4欄。残りが総務課長、営業課長、物流課長、品管課長、製造担課の5欄です。これとは別に、最終確認の確認者印が1つ設けられています。
1枚の用紙が完了するまでの流れは、次の8工程です。
| 工程 |
内容 |
| 1 |
トラブルが発生する |
| 2 |
担当者が報告書を作成し、印刷する |
| 3 |
ホワイトボードへ貼り出す |
| 4 |
各管理者が確認し、日付を記入する |
| 5 |
全員が記入したら、用紙を記入者へ返却する |
| 6 |
記入者が原因と再発防止策を記入し、上長が確認して押印する |
| 7 |
管理職に回覧し、確認のうえ押印する |
| 8 |
管理者全員の押印をもって完了とする |
同じ14の役職欄を、日付の記入と押印という2つの目的で2度通る構造です。1回目は事実の共有、2回目は原因と対策の承認と、目的が違う2つの回覧が1枚の用紙に載っていました。押印欄14に2周を掛けると、1枚が完了するまでに28回の受け渡しが発生している計算になります。年間の発行枚数は検証の入口では確認できていないため、ここでは1枚あたりの回数までを示します。
現場から挙がった不満は3点です。1枚の紙で2回回覧すること、紙を印刷しないといけない手間、手書きで記載しないといけないこと。加えて完了の条件が管理者全員の押印と定められているため、誰か1人が不在になれば報告は完了しません。用紙そのものに「保存永年」と印刷されている点も、紙が減らない理由でした。なおこの「保存永年」は社内規程による定めで、法令が求める保存年限とは別のものです。
検証にあたって示した設計は、発生報告と完了報告を2本のワークフローに分け、1本目で入力した内容を2本目へ自動で引き継ぐ形です。承認者の数は変えていません。なくしたのは、用紙の往復と印刷だけです。費用の条件も明確で、「全社員にワークフローを使わせたいが、システムに費用を掛けられない」というものでした。
【製造業・従業員15名】社内規定の原本が、社長の席の後ろに1部だけ
請求書と社内共有事項を営業所の担当者に確認してもらう流れを、その都度、紙で回していました。担当者の言葉は「紙運用/ハンコだと、どこで止まっているかわからない」というものです。
この会社では、承認の流れだけでなく、社内規定という文書の置き場所も課題に挙がりました。「現状、社内規定は社長の席の後ろに紙で置いてあるので確認しにくい」という状況です。原本が1か所にしかないという点で、回覧中の申請書と同じ構造だといえます。申請の電子化と並べて、規定を画面から引ける形にする案も検証の対象にしました。
検証を担当しているのは営業部の1名で、情報システムの専任者が関与した記録はありません。承認に関わる人数がもともと限られている組織では、ルートを作り込むよりも、いま誰の手元で止まっているかを見えるようにするほうが先に効くと考えられます。
【商社・従業員約400名/全国20拠点】基幹システムへの打ち直しが後ろに控えている
はじめに検証の範囲を明確にしておきます。対象は全社400名ではなく、商品物流本部の約20名です。着手は伝票の切り分けから入りました。システムから発行する赤い伝票は将来の課題とし、手書きで発行している青い伝票2種類を先に扱う、という整理です。
基幹システムはAS/400(IBM i)で、紙伝票の内容を人がキーボードで打ち直していました。
同本部のパソコン操作は「Excelに入力して帳票として印刷する程度」という状況です。担当者からは「AS/400へのデータ連携ができなければ、入力業務が残るので、AS/400連携ができないツールだと意味がない」という声が出ています。申請だけを電子にしても、打ち直しの手間は残るということです。
社外が絡む書類も検証しています。取引先とやり取りする協力費確認書について、取引先側の操作は4つに限定しました。書類をダウンロードする、署名する、署名済みの書類をアップロードする、アップロードのときに社内の担当者を選ぶ、という4つです。社内の承認がどこまで進んだかは、取引先からは見えない設計としました。
押印の扱いも途中で変わりました。当初案では社内で押印者へその都度依頼する工程が残っていましたが、想定フロー図には見直し後「ワークフロー承認部分は、印鑑などではなく、システム上の“承認”がわかればOK」と記されています。一方で担当者からは「やりたいことが増えるほど費用が膨らんで頓挫しないか」という懸念も出ており、対象を1部門・2種類の伝票に絞っているのは、この懸念への答えでもあります。
AS/400(IBM i)に関する課題や回避策に関しては、AS/400(IBM i)サポート終了で考える2層ERPでの運用についてをご覧ください。
【教育・従業員約220名】各拠点のExcelを、本部でもう一度Excelに打ち直している
学習塾を運営する企業の事例です。課題は「各拠点から生徒の情報などExcelが届き、本部で再度Excelに二重入力する手間がめんどう」という状況でした。紙の回覧ではなく、電子ファイルが紙のように扱われている形です。
この構造は、紙の帳票と同じ問題を含んでいます。拠点で入力した内容が本部でもう一度入力されるため、1件につき記入が2回発生します。前掲の商社が基幹システムへの打ち直しを抱えているのと同じで、入口を電子にしても出口で人が打ち直していれば手間は残ります。
拠点をまたぐ帳票は、1枚あたりの節約が拠点数だけ積み上がります。着手する帳票を選ぶときに、回覧の人数だけでなく何拠点分の入力が発生しているかを数えておく理由がここにあります。
【製造業・正社員約520名】有給申請のために、年120万円を払い続けている
既存のワークフロー製品を有給申請に使っていた企業です。契約はユーザー数無制限で月額10万円。単純に12を掛ければ年120万円が、有給申請という1つの用途のために固定費として出ていた計算になります。
問題は金額そのものではなく、使い勝手に不満を抱えたまま固定費になっていた点です。ユーザー数無制限という条件は人数が増えても金額が変わらない利点がありますが、使う帳票が1種類のままなら、1帳票あたりの単価は下がりません。すでに製品を導入している企業が次に見るべきは、乗り換えの可否よりも、同じ費用で何種類の帳票を載せられるかという点です。金額の妥当性は、その帳票で発生している受け渡しの回数と並べて判断します。
5社が確かめていた点は、回覧の目的、原本の置き場所、打ち直しの有無の3つでした。回覧の目的が2つ混ざっていないか、原本が1か所にしかないことで困っていないか、打ち直しが後ろに控えていないか。この3つは、着手前に確かめる項目としてそのまま使えます。