ペーパーレス化の事例と進め方|事例5選とメリット・デメリット、どの帳票から始めるか

本記事は2026/08/21に更新しております。
ペーパーレス化の事例と進め方|事例5選とメリット・デメリット、どの帳票から始めるか

紙をなくしたいと考えて社内を見まわすと、申請書、回覧、台帳、報告書と、紙はあちこちに残っています。スキャンして共有フォルダに入れてみたものの、結局は紙も刷り続けている。そんな経験をお持ちの方も少なくありません。

 

ペーパーレス化とは、紙で行っていた記入、回覧、保存を電子の手段に置き換えることです。進まないのは意識の問題ではありません。1枚の紙が「記入する場所」「回覧する媒体」「保存する現物」という3つの役割を同時に引き受けているためで、どれか1つを電子に移すと、残りの2つが紙のまま取り残されます。

 

この記事では、当社が2026年に実施したPoC(Proof of Concept=導入前検証。実際の業務データで自社の帳票が作れるかを試す取り組みです)で伺った5社の事例を先にお見せしたうえで、ペーパーレス化の方法6種類、どの帳票から手を付けるかを決める5つの判断材料、着手前に決めておく4つのこと、紙に戻らないための5ステップをお伝えします。読み終えたときに、最初に電子化する1枚と社内で決める項目が手元に残る状態を目指します。

01

まずは結論!ペーパーレス化は「1枚の紙が回る道順」を置き換えるところから始まります

全社のペーパーレス化を紙に戻さずに進めるには、次の3つを最初に固めます。

 

  1. 着手する帳票を1枚に絞り、その1枚が「誰の手を」「どの順番で」「何回通るのか」を書き出します
  2. 押印欄をどう扱うか、紙の原本をいつ捨てるかを、ツールを選ぶ前に決めておきます
  3. 紙とシステムを並べて動かす並走期間について、終了日を開始前に決めます

 

避けたい失敗も3つあります。いずれもツールの性能ではなく、決め事の欠落から起きます。

 

  1. 1並走が終わらず、担当者の入力が1件につき2回に増えます
  2. 紙の原本を捨ててよいか判断できず、キャビネットが減らないまま棚が埋まります
  3. 申請だけが電子になり、基幹システムへ数字を打ち直す作業が手元に残ります

 

当社のPoCで伺った従業員約70名の食品製造業からは、「1枚の紙で2回回覧する手間をなくしたい」という要望がでました。1枚のトラブル発生報告書が、同じ顔ぶれを2周していたためです。

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02

ペーパーレス化とは、紙の「記入」「回覧」「保存」を電子に置き換えることです

ペーパーレス化とは、紙で行っていた記入、回覧、保存を電子の手段に置き換えることです。置き換える対象は紙の枚数ではなく、その紙が担っていた仕事のほうです。似た言葉との違いを整理しておきます。

 

言葉 指している範囲
電子化 紙をスキャンして画像やPDFにすること。情報を電子データに変える段階
ペーパーレス化 記入、回覧、保存という紙の仕事を電子に置き換え、紙を使わない状態にすること
デジタル化 アナログ情報をデータ化し、ITツールで既存業務を効率化すること。
DX デジタル技術でビジネスモデルや組織を根本から変革し、新たな価値を創出すること

 

スキャンして共有フォルダに入れただけの状態は、電子化です。記入も回覧も紙のままであれば、ペーパーレス化としては途中です。対象は、社内では休暇届、稟議書、回覧文書、各種台帳、報告書、会議資料、給与明細など、社外では見積書、注文書、請求書、契約書が該当します。

 

法令の面では、e-文書法によって法定保存文書を電子データで保存することが認められ、電子帳簿保存法によって電子で受け取った取引情報は電子のまま保存することが定められています。紙で持ち続けるほうが例外に近づいている、という状況です。

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03

ペーパーレス化の事例5選|導入前検証で伺った現場の事実

当社が2026年に実施したPoCには9社が参加しています。このうち、紙の運用を課題に挙げていた5社をご紹介します。検証を終えた企業、検証中の企業、要件の確認を終えて検証を待つ企業が含まれます。内訳は製造業3社、商社1社、教育1社です。

 

先にお断りしておきます。紙の枚数や所要日数の削減効果は、参加9社のいずれでも計測前の段階です。導入後の数値を示せないため、この章では「紙のままだった状態」と「何を見て次へ進めたか」に絞ってお伝えします。また、企業名を開示する同意が得られていないため、業種と規模のみの記載としました。以下の数字は、いずれも検証の入口で確認した現状の値です。

 

業種・規模 対象の帳票 紙のままだった状態 電子化のために決めたこと
製造業(食品)/従業員約70名 トラブル発生報告書 手書き。回覧用の押印欄が14、完了までの工程が8つ、同じ顔ぶれを2周(1枚あたり28回の受け渡し) 発生報告と完了報告を2本のワークフローに分け、入力内容を引き継ぐ
製造業(建設機械)/従業員15名 請求書、社内共有事項、社内規定 紙でその都度回覧。社内規定の原本は社長の席の後ろに1部のみ ルートを作り込むより先に、いま誰の手元で止まっているかを見えるようにする
商社/従業員約400名・全国20拠点(対象は商品物流本部の約20名) 手書きの青い伝票2種類、協力費確認書 紙伝票の内容を基幹システム(AS/400)へ人が打ち直し。Excelに入力して印刷する運用 システム発行の赤い伝票は後回しにし、青い伝票2種類から着手。取引先の操作は4つに限定
教育(学習塾運営)/従業員約220名 各拠点から本部へ届く生徒情報のExcel 各拠点が作成したExcelを、本部で再度Excelに二重入力 拠点をまたぐ帳票を優先。1枚あたりの節約が拠点数だけ積み上がる
製造業(食品)/正社員約520名 有給申請 既存のワークフロー製品にユーザー数無制限で月額10万円(年120万円)。使い勝手に不満を抱えたまま固定費化 費用と使い勝手の両方を見直す前提で、対象帳票を絞って再検証

【製造業・従業員約70名】押印欄14の報告書が、同じ顔ぶれを2回まわる

社内で起きたトラブルを記録する報告書が、手書きで運用されていました。回覧用の押印欄は14です。内訳は、社長、常務、品証部長、社長室長、製造部長までで5欄。続いて業務次長、製造次長、業務参与、製造参与の4欄。残りが総務課長、営業課長、物流課長、品管課長、製造担課の5欄です。これとは別に、最終確認の確認者印が1つ設けられています。

 

1枚の用紙が完了するまでの流れは、次の8工程です。

 

工程 内容
1 トラブルが発生する
2 担当者が報告書を作成し、印刷する
3 ホワイトボードへ貼り出す
4 各管理者が確認し、日付を記入する
5 全員が記入したら、用紙を記入者へ返却する
6 記入者が原因と再発防止策を記入し、上長が確認して押印する
7 管理職に回覧し、確認のうえ押印する
8 管理者全員の押印をもって完了とする

 

同じ14の役職欄を、日付の記入と押印という2つの目的で2度通る構造です。1回目は事実の共有、2回目は原因と対策の承認と、目的が違う2つの回覧が1枚の用紙に載っていました。押印欄14に2周を掛けると、1枚が完了するまでに28回の受け渡しが発生している計算になります。年間の発行枚数は検証の入口では確認できていないため、ここでは1枚あたりの回数までを示します。

 

現場から挙がった不満は3点です。1枚の紙で2回回覧すること、紙を印刷しないといけない手間、手書きで記載しないといけないこと。加えて完了の条件が管理者全員の押印と定められているため、誰か1人が不在になれば報告は完了しません。用紙そのものに「保存永年」と印刷されている点も、紙が減らない理由でした。なおこの「保存永年」は社内規程による定めで、法令が求める保存年限とは別のものです。

 

検証にあたって示した設計は、発生報告と完了報告を2本のワークフローに分け、1本目で入力した内容を2本目へ自動で引き継ぐ形です。承認者の数は変えていません。なくしたのは、用紙の往復と印刷だけです。費用の条件も明確で、「全社員にワークフローを使わせたいが、システムに費用を掛けられない」というものでした。

【製造業・従業員15名】社内規定の原本が、社長の席の後ろに1部だけ

請求書と社内共有事項を営業所の担当者に確認してもらう流れを、その都度、紙で回していました。担当者の言葉は「紙運用/ハンコだと、どこで止まっているかわからない」というものです。

 

この会社では、承認の流れだけでなく、社内規定という文書の置き場所も課題に挙がりました。「現状、社内規定は社長の席の後ろに紙で置いてあるので確認しにくい」という状況です。原本が1か所にしかないという点で、回覧中の申請書と同じ構造だといえます。申請の電子化と並べて、規定を画面から引ける形にする案も検証の対象にしました。

 

検証を担当しているのは営業部の1名で、情報システムの専任者が関与した記録はありません。承認に関わる人数がもともと限られている組織では、ルートを作り込むよりも、いま誰の手元で止まっているかを見えるようにするほうが先に効くと考えられます。

【商社・従業員約400名/全国20拠点】基幹システムへの打ち直しが後ろに控えている

はじめに検証の範囲を明確にしておきます。対象は全社400名ではなく、商品物流本部の約20名です。着手は伝票の切り分けから入りました。システムから発行する赤い伝票は将来の課題とし、手書きで発行している青い伝票2種類を先に扱う、という整理です。

 

基幹システムはAS/400(IBM i)で、紙伝票の内容を人がキーボードで打ち直していました。

 

同本部のパソコン操作は「Excelに入力して帳票として印刷する程度」という状況です。担当者からは「AS/400へのデータ連携ができなければ、入力業務が残るので、AS/400連携ができないツールだと意味がない」という声が出ています。申請だけを電子にしても、打ち直しの手間は残るということです。

 

社外が絡む書類も検証しています。取引先とやり取りする協力費確認書について、取引先側の操作は4つに限定しました。書類をダウンロードする、署名する、署名済みの書類をアップロードする、アップロードのときに社内の担当者を選ぶ、という4つです。社内の承認がどこまで進んだかは、取引先からは見えない設計としました。

 

押印の扱いも途中で変わりました。当初案では社内で押印者へその都度依頼する工程が残っていましたが、想定フロー図には見直し後「ワークフロー承認部分は、印鑑などではなく、システム上の“承認”がわかればOK」と記されています。一方で担当者からは「やりたいことが増えるほど費用が膨らんで頓挫しないか」という懸念も出ており、対象を1部門・2種類の伝票に絞っているのは、この懸念への答えでもあります。

 

AS/400(IBM i)に関する課題や回避策に関しては、AS/400(IBM i)サポート終了で考える2層ERPでの運用についてをご覧ください。

【教育・従業員約220名】各拠点のExcelを、本部でもう一度Excelに打ち直している

学習塾を運営する企業の事例です。課題は「各拠点から生徒の情報などExcelが届き、本部で再度Excelに二重入力する手間がめんどう」という状況でした。紙の回覧ではなく、電子ファイルが紙のように扱われている形です。

 

この構造は、紙の帳票と同じ問題を含んでいます。拠点で入力した内容が本部でもう一度入力されるため、1件につき記入が2回発生します。前掲の商社が基幹システムへの打ち直しを抱えているのと同じで、入口を電子にしても出口で人が打ち直していれば手間は残ります。

 

拠点をまたぐ帳票は、1枚あたりの節約が拠点数だけ積み上がります。着手する帳票を選ぶときに、回覧の人数だけでなく何拠点分の入力が発生しているかを数えておく理由がここにあります。

【製造業・正社員約520名】有給申請のために、年120万円を払い続けている

既存のワークフロー製品を有給申請に使っていた企業です。契約はユーザー数無制限で月額10万円。単純に12を掛ければ年120万円が、有給申請という1つの用途のために固定費として出ていた計算になります。

 

問題は金額そのものではなく、使い勝手に不満を抱えたまま固定費になっていた点です。ユーザー数無制限という条件は人数が増えても金額が変わらない利点がありますが、使う帳票が1種類のままなら、1帳票あたりの単価は下がりません。すでに製品を導入している企業が次に見るべきは、乗り換えの可否よりも、同じ費用で何種類の帳票を載せられるかという点です。金額の妥当性は、その帳票で発生している受け渡しの回数と並べて判断します。

 

5社が確かめていた点は、回覧の目的、原本の置き場所、打ち直しの有無の3つでした。回覧の目的が2つ混ざっていないか、原本が1か所にしかないことで困っていないか、打ち直しが後ろに控えていないか。この3つは、着手前に確かめる項目としてそのまま使えます。

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ペーパーレス化のメリットとデメリット

得られるものと、引き換えに発生する負担を並べておきます。

 

メリット 内容
紙にかかる費用が減る 用紙代、トナー代、印刷機の保守費、郵送費、保管と廃棄の費用
探す時間が短くなる 書類名、取引先、金額などで検索できる
場所を選ばず承認できる 出社しなくても申請と承認が進む
保管スペースが空く キャビネットや書庫の面積が減る
誰が見たかを記録できる 閲覧や編集の権限を設定し、操作の記録を残せる
デメリット 内容
導入と移行に費用と手間がかかる 製品の費用、端末の準備、規程の見直し、過去の紙の読み取り
移行直後は効率が落ちる 新しい画面に慣れるまでの期間が必要になる
複数の資料を並べて見にくい 画面の大きさに制約される
障害に左右される 回線や機器が止まると参照できない
操作の慣れに差が出る 部署や担当者で習熟の速度が異なる

 

前述の5社を並べると、デメリットの中心が視認性やITリテラシーではなく、費用が読めるかどうかにあることが分かります。従業員約70名の企業は「システムに費用を掛けられない」、正社員約520名の企業は年120万円の固定費、従業員約400名の商社は「やりたいことが増えるほど費用が膨らんで頓挫しないか」。規模が違っても、引っかかっている場所は同じです。対象を1枚に絞って始める理由の1つはここにあり、1帳票なら掛かる費用と削れる受け渡しの回数を並べて示せます。

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紙が残るのは、1枚の紙が3つの役割を同時に持っているからです

「紙をなくしましょう」という掛け声が空回りするのは、紙が1つの仕事しかしていない前提で話が進むからです。役割ごとに分けると、どこから外せるかが見えてきます。

記入する場所としての紙

書き込む欄が印刷された用紙という役割です。入力画面に置き換えやすい部分ですが、「どの項目を必ず埋めてもらうか」「どの項目は選択肢から選ばせるか」を決める作業が発生します。紙のときは空欄のまま回っても誰かが口頭で補っていたため、この決め事が表に出てきませんでした。

順番にまわす媒体としての紙

承認者から承認者へ物理的に手渡される媒体という役割です。紙は1枚しかないため、その1枚がある場所が、そのまま業務の進捗になります。従業員15名の製造業から出た「紙運用/ハンコだと、どこで止まっているかわからない」という言葉は、この役割の裏返しです。

 

稟議申請や支払い承認などの電子決裁に関しては、電子決裁で業務をスムーズに|稟議申請・支払承認の電子化を導入前検証の現場から解説もあわせてご覧ください。

保存する現物としての紙

あとから見返すための現物という役割です。前掲の食品製造業の報告書は、様式そのものに「保存永年」と印刷されており、捨てる前提で作られていません。この役割が残っている限り、入力も回覧も電子にしたところで、最後に印刷してファイルに綴じる工程が残ります。

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ペーパーレス化の方法は6種類|こんな方法もあります

手段は、3つの役割のどれを置き換えるかで選び分けます。

 

方法 置き換わる役割 向いている場面
ワークフローシステム 記入と回覧 申請、承認、回覧が発生する社内の帳票
文書管理システム 保存 保存年限や検索の要件が定められた書類
クラウドストレージ 保存 共有フォルダの置き換え、資料の共同編集
スキャナ・AI-OCR 保存(過去の紙) すでにある紙を読み取ってデータにする
電子契約・電子署名 回覧(社外) 取引先の署名や押印が挟まる書類
スキャニング代行 保存(過去の紙) 過去分の量が多く、社内で処理しきれない場合

 

置き換えたい役割が決まっていなければ、どの方法も選べません。ツールの比較から入ると、記入だけが電子になって回覧と保存が紙のまま残ります。既存のシステムとつながるかどうかも候補を絞る条件です。前掲の商社では基幹システムがAS/400で、そこへ連携できるかが前提条件になりました。

 

ワークフローシステムの選び方に関しては、ワークフローシステム比較の3つの軸|選び方・料金・無料版の限界を検証データから見極めるもご覧ください。

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どの帳票から手を付けるかを決める5つの判断材料

全社の紙を一度に見渡すと、量に圧倒されて手が止まります。そこで、手元の帳票を次の5つの判断材料で並べ替えます。棚卸しとは、この5つの判断材料を埋める作業です。

 

判断材料 見るもの 判断の向き
年間の発行枚数 1年間に何枚出ているか。月次なら12倍、日次なら稼働日数倍で概算する 多いほど先に着手
回覧の人数と回数 1枚が何人の手を通り、同じ人を何回通るか。拠点をまたぐなら何拠点分か 多いほど先に着手
社外が関わるか 取引先や顧客の署名・押印・返送が挟まるか 挟まるなら後回し
基幹システムへの転記 紙の内容を別のシステムへ手で打ち直す工程があるか あるなら後回し
保存年限と法令の縛り 何年保存する書類か。税務や品質管理の要件が掛かるか 緩いほど先に着手

 

発行枚数と回覧の人数は掛け合わせて見ます。年に1,200枚出る帳票が5人を通るなら、受け渡しは年6,000回発生している計算です。この回数が、社内で効果を説明するときの材料になります。前掲の食品製造業のように押印欄14を2周する帳票なら、1枚で28回。年100枚でも2,800回です。

 

基幹システムへの転記がある帳票は初回に向きません。前掲の商社では紙伝票の内容を人がAS/400へ打ち直しており、申請だけを電子にしても打ち直しの手間は残ります。学習塾を運営する企業の二重入力も同じ構造です。

 

最初の1枚に向くのは、枚数が多く、回覧人数が多く、社外が関わらず、基幹への転記がなく、保存年限の縛りが緩い帳票です。休暇届、経費の事前申請、備品購入の依頼などが当てはまります。

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紙を1枚なくす前に決めておく4つのこと

ツールを選ぶ前に決めておくと手戻りが小さくなる項目が4つあります。どれも紙のときは暗黙の了解で回っていたため、電子にした瞬間に決めざるを得なくなるものです。

押印欄を承認操作に置き換えるのか、記録と回覧の履歴で代替するのか

前掲の食品製造業では、これが最初の確認事項として挙がりました。上長の確認にシステム上の承認操作が必要になるのか。それとも、報告内容をシステムに記載し、上長自身が回覧することで押印の代わりにできるのか、という2つの問いです。

 

似ているようで、残る記録が違います。承認操作にすると「誰が」「いつ」「どの版を」承認したかが残ります。記載と回覧では、閲覧の事実は残りますが承認の意思表示は残りません。監査や取引先への説明で承認の事実を示す必要がある欄なのかどうかで、選ぶ内容が変わります。

 

前提として、押印欄の性格は用紙に書かれていない場合があります。同社の報告書に並ぶ14の押印欄には、どれが決裁でどれが確認なのかという区分がなく、印字されているのは「※最終報告は社長まで」という一文だけです。区分は自社で仕分けるほかありません。

 

脱ハンコに関して詳しく知りたい方は、脱ハンコで内部統制を強化する実践ガイド|管理職が知るべき規程見直しと承認プロセスのDX化もあわせてご覧ください。

その帳票の「完了」を何で判断するか

紙の回覧では、完了の定義が「全員の押印がそろったこと」になっている場合が多くあります。前掲の食品製造業もそうでした。この定義のまま電子にすると、1人が不在になった時点で書類は完了しません。電子化を機に「必須の承認者は誰か」「不在時は誰が代わりに承認するか」「何日たったら次へ進めるか」を決めておくと、止まる場所が減ります。

紙の原本を捨てるのか、残すのか

読み取って保存すれば紙を捨ててよいのか。ここが分からないままだと、電子化してもキャビネットは減りません。判断の根拠になるのが、電子帳簿保存法(帳簿や書類を電子データで保存するときの条件を定めた法律です)のスキャナ保存という制度です。

国税庁の一問一答、令和7年6月版には、廃棄の可否について「スキャナで読み取り、最低限の同等確認を行った後であれば、即時に廃棄して差し支えありません」と書かれています(出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」令和7年6月)。条件を満たして読み取り、読み取った内容が原本と同じだと確かめたあとであれば、その場で紙を処分してかまわない、ということです。

同資料が示す主な条件は次のとおりです。重要書類とは、資金や物の流れに直結する契約書や領収書などを指し、一般書類は要件の一部が緩和されます。

 

条件 資料に書かれている内容
対象となる書類 「棚卸表、貸借対照表及び損益計算書などの計算、整理又は決算関係書類」を除く書類
入力の時期 重要書類を受領後すぐに入力する場合はおおむね7営業日以内。業務の流れのなかで処理してから入力する場合は、最長2か月とおおむね7営業日以内
読み取りの品質 「25.4ミリメートル当たり200ドット以上」、色は「赤色、緑色及び青色の階調がそれぞれ256階調以上」
検索の条件 「取引等の年月日、取引金額及び取引先」で検索できること

 

自社の帳票がこの条件を満たせるかは、ツールを選ぶときの確認項目になります。税務に関わらない社内文書は対象外ですが、労務や品質の分野で別の要件が掛かる場合がありますので、その帳票の保存年限が法令由来か社内規程由来かを先に確かめておきます。

様式と承認者を、誰が直せるようにするか

電子にすると、様式の変更が印刷所への発注ではなく画面の設定に変わります。誰が設定を変えてよいのかを決めずに始めると、部署ごとに項目が増えて、同じ帳票の別版が並びます。手がかりになるのが企業会計審議会の意見書で、統制活動には「権限及び職責の付与、職務の分掌等の広範な方針及び手続が含まれる」としています(出典:企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」令和5年4月7日)。誰に何をする権限を与えるかを定めること自体が、仕組みの一部だという整理です。

 

これを様式の変更権限に当てはめると、入力項目の追加や表示順の変更は現場に開き、承認者の並びや権限の設定は管理部門が握る、という線引きが作れます。同資料が承認の設定方法を述べているわけではありませんので、ここは参考としてお読みください。決めた内容を実際の画面でどこまで再現できるかは、お問い合わせページからお問い合わせください。

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紙に戻らないための5ステップ

決め事がそろったら、進め方は次の順番になります。全社を一度に動かさず、1枚ずつ紙から離していく形です。

 

ステップ1 紙の帳票を5つの判断材料で棚卸しする

前の章の5つの判断材料を、実際の紙を集めて埋めます。全部署をいきなり回る必要はありません。総務、経理、品質管理など紙が集まりやすい部署から3つほど選び、そこにある帳票を並べます。

ステップ2 最初の1枚を決め、並走の終了日を先に決める

表の上位から1枚を選び、同時に「いつまで紙と併用するか」を日付で決めます。ここを決めずに始めると「慣れるまでは紙も」が期限なく続き、担当者は同じ内容を2回書き続けます。終了日を過ぎたら紙の様式を配布しない、という措置まで決めておくと戻りにくくなります。

ステップ3 1つの部署で動かし、止まった場所を記録する

最初の1枚を1部署で動かします。ここで見るのは削減できた時間ではありません。どこで止まったか、どの項目で入力に迷ったか、誰から質問が来たかを記録し、2枚目以降の設計図にします。

ステップ4 2枚目を選ぶ条件を決めて横展開する

横展開では、他部署からの反応が課題になります。当社の調査では、DX推進を進めるうえで他部署から抵抗を感じた経験を尋ねました。情報システム部門の管理職221人のうち「頻繁にある」が21.7%、「時々ある」が61.1%で、合計82.8%にのぼりました。

 

調査は2025年10月6日から10月7日にかけて実施しています。

➡レガシーシステムが存在する企業は91.9%!~情シス部門の管理職221人に”現場が直面するDX推進の障壁と課題”についてアンケート調査を実施~

 

新しいデジタルツールや業務プロセスを導入する際に、他部署から強い抵抗感を示されることがありますか?

他部署からの抵抗

 

 

そこで2枚目には「1枚目と同じ部署の別の帳票」か「1枚目と同じ様式を使う別部署」を選びましょう。どちらかが既知であれば、説明のやり直しが減ります。

➡バックオフィスDX「スモールスタート×アジャイル」導入ガイド|DX計画が頓挫する理由と対策

ステップ5 基幹システムとの連携は最後に置く

打ち直しが残る帳票は、この段階で扱います。連携を最初に持ってくると要件の調整に時間がかかり、その間ほかの帳票が1枚も減りません。全体の期間は、日数で区切るよりも「止まった場所を記録し終えたら次の帳票へ進む」という条件で区切るほうが合意を得やすくなります。

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よくある質問

Q. ペーパーレス化とは何ですか。電子化やデジタル化とはどう違いますか。
A. ペーパーレス化は、紙で行っていた記入、回覧、保存を電子の手段に置き換えることを指します。紙をスキャンして画像にするだけの作業は電子化に当たり、記入や回覧の流れが紙のままであれば、ペーパーレス化としては途中の状態です。

 

Q. ペーパーレス化にはどんな方法がありますか。
A. 申請と回覧を置き換えるならワークフローシステム、保存と検索なら文書管理システムやクラウドストレージ、すでにある紙をデータにするならスキャナやAI-OCR、スキャニング代行が候補です。取引先の署名が挟まる書類は電子契約が対象になります。置き換えたい役割が決まっていないと選べません。

 

Q. 中小企業のペーパーレス化の事例はありますか。
A. 本記事では従業員15名の建設機械メーカー、従業員約70名の食品製造業、従業員約220名の学習塾運営企業の事例を紹介しています。いずれも情報システムの専任部署を前提にしていません。15名の企業では検証の担当が営業部の1名で、承認に関わる人数がもともと限られているため、ルートを作り込むよりも、いま誰の手元で止まっているかを見えるようにするほうを先に置いています。

 

Q. 製造業のペーパーレス化は、どこから始めている事例が多いですか。
A. 本記事で紹介した製造業3社は、いずれも社内で完結する帳票から入っています。従業員約70名の企業はトラブル発生報告書、従業員15名の企業は請求書と社内共有事項の回覧、正社員約520名の企業は有給申請です。取引先が絡む書類と、基幹システムへ打ち直しが発生する伝票は後回しにする、という順番が共通していました。

 

Q. ペーパーレス化の費用はどのくらいかかりますか。
A. 製品と利用人数で変わるため一律には言えません。当社の検証には、有給申請のワークフローにユーザー数無制限で月額10万円、年に換算して120万円を支払っている正社員約520名の企業が含まれます。一方、従業員約70名の企業からは「システムに費用を掛けられない」という条件が示されました。金額の妥当性は、その帳票で発生している受け渡しの回数と比べて判断してください。年1,200枚が5人を通る帳票なら、年6,000回が比較の対象です。

 

Q. 紙の原本は、読み取ればすぐに捨ててよいのですか。
A. 税務に関わる書類については、国税庁の一問一答が条件を示しています。読み取りの解像度と色の階調、入力の時期、検索できる項目という条件を満たし、読み取った内容が原本と同じだと確かめたあとであれば、その場で処分してかまわないという整理です。条件を満たせるかは使うツールと運用の両方で決まります。

 

Q. メールやPDFでやり取りした請求書は、印刷して紙で保存してもよいですか。
A. 電子でやり取りした取引情報は、電子のまま保存することが定められています。国税庁の一問一答【電子取引関係】の令和7年6月版には、「所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者」が電子取引を行った場合に、その取引情報を電磁的記録により保存しなければならないと書かれています(出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答」)。受け取ったデータを印刷して紙で綴じるだけでは、保存したことになりません。

 

なお、上記は国税庁が管轄する税法(電子帳簿保存法など)における取扱いについてのみ記載したものです。請求書等の取引書類に関しては、会社法や下請法など、他の法令においても別途保存要件が定められている場合があります。実際の運用やシステムの導入にあたっては、必ず関連する他の法令等についてもあわせてご確認いただくか、専門家にご相談ください。

 

Q. 現場から「紙のほうが速い」と言われて、元に戻ってしまいます。
A. 紙のほうが速く感じるのは、多くの場合、並走が続いているためです。紙とシステムの両方に書いていれば、紙だけのときより手数が増えるのは自然なことです。前掲の当社調査でも、他部署からの抵抗感を経験した方が8割を超えていました。並走の終了日を先に決め、その日以降は紙の様式を配らないところまで決めると、比較の土俵がそろいます。

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まとめ

ペーパーレス化とは、紙で行っていた記入、回覧、保存を電子の手段に置き換えることです。うまく進まないのは、1枚の紙がこの3つの役割を同時に持っているためです。


導入前検証で伺った5社を並べると、紙が残っていた場所は、目的の違う回覧が1枚に載っていること、原本が1か所にしかないこと、電子にしたあとで人が打ち直していることの3つに集約されました。規模は15名から520名まで、業種は製造業、商社、教育と異なりますが、引っかかっている場所は共通しています。

 

方法は6種類あり、置き換えたい役割から選びます。着手する1枚は、年間の発行枚数、回覧の人数と回数、社外が関わるか、基幹システムへの転記があるか、保存年限の縛りという5つの判断材料で並べ替えて選びます。選んだら、押印欄の扱い、完了の定義、原本を捨てるかどうか、様式を誰が直せるかの4つを先に決め、そのうえで棚卸しから連携までの5ステップを順に進めます。

 

紙をなくす順番が決まると、次はツールが同じ流れを再現できるかの確認になります。申請と回覧、帳票の出力がSlopebaseでどこまで作れるかを見比べたい方は、資料請求ページから資料をご請求ください。

 

 

免責事項

本記事のデータ保存や廃棄に関する記載は、執筆時点の国税庁の基準(電子帳簿保存法等)に基づいています。しかし、対象の帳票によっては会社法や労働関係法令など、税務以外の法令で保存義務が課される場合があります。紙の原本の廃棄や運用策定にあたっては、必ずご自身で最新の関連法令を最終確認するか、専門家にご相談ください。本記事の利用により生じた損害について、当社は一切の責任を負いかねます

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Slopebaseとは

 

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※バックオフィス業務とは経理や総務、人事、法務、財務などといった直接顧客と対峙することの無い社内向け業務全般を行う職種や業務のこと

 

この記事を書いた人

赤峯豪
BtoB専門ライター。通信事業会社・大手IT企業で16年間、BPR(業務プロセス改革)や予算管理業務に携わる。在職中に独学で簿記2級を取得。DX・RPAを含むオペレーション改善を幅広く企画・実行。その後、売上高1,300億円規模の経営企画・予算管理業務に従事。ライター転身後は、BtoB向け記事、ホワイトペーパー、LPの執筆・制作を中心に手がけている。
監修
田中雅人(ITコンサルタント)

ソフトウェアメーカー取締役、IT上場企業の取締役を経て、現在、合同会社アンプラグド代表。これまでに、Webサイト制作、大規模システム開発、ECサイト構築、SEM、CRM等のWebマーケティングなど、IT戦略全般のコンサルティングを30年以上実施。現在は、大手上場企業から中小企業まで、IT全般のコンサルティングを行っているかたわらWebマーケティングに関するeラーニングの講師、コラム執筆なども実施。

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