ここからは、これまでのPoC検証で実際に行ってきた進め方を、6つのステップに整理して解説します。
説明を分かりやすくするため、この章では「見積から請求までをExcelとメールで管理している企業」を例にします。この例は、複数の検証で共通して見られた状況をもとに編集部が構成したもので、特定の企業の事例ではありません。
ステップ1:PoCのテーマを「問い」の1文で書く
最初に行うのは、PoCで何を確かめるのかを1文で書くことです。ポイントは、「〜を導入する」ではなく「〜できるか」という問いの形で書くことです。
例であれば、次のような1文になります。
Excelとメールに分散している見積の管理を、1つのシステムで一元管理できるか
検証の中でも、判定までスムーズに進んだのは、このように「今使っている仕組みのうち、何を残し、何をまとめるのか」をテーマの段階ではっきりさせていたケースでした。
問いの形にしておくと、検証の最後に「はい/いいえ/条件付きではい」で答えられます。反対に、「業務の効率化を目指す」といった目的の形で書くと、何をもって達成とするかが曖昧になり、ステップ4の合否基準が作れなくなります。
ステップ2:対象を1業務まで絞り、現物を集める
次に、検証の対象を絞ります。業務システムのPoCで最もよくある失敗は、最初から業務全体を対象にしてしまうことです。対象が広いほど準備に時間がかかり、判定も難しくなります。
例では、見積・受注・請求のうち、現在最も手間がかかっている「見積」だけを対象にします。検証の中でも、複数の業務や品目の中から1つだけを先に選んだ企業ほど、判定までの流れがスムーズでした。
対象を決めたら、その業務で実際に使っているExcelや帳票を全種類集めます。ここで一部の帳票しか集めないと、検証の途中で別の帳票が出てきて、前提が崩れます。
もう1つ大切なのが、現行のExcelの中身を読み解くことです。長く使われてきたExcelには、関数やマクロが組み込まれ、シート同士が複雑に参照し合っていることが少なくありません。「どのシートがどのデータを参照しているか」「なぜこの構造になっているのか」を確認事項として整理してから打合せに臨むと、検証がずっと速く進みます。
なお、どの業務を最初の対象に選ぶかという判断の考え方は、スモールスタートの導入ガイドで詳しく扱っています。
ステップ3:「マスト」と「できれば」を分けて検証項目を洗い出す
対象が決まったら、検証項目を洗い出します。このとき必ず行っていただきたいのが、マスト要件(満たせなければ導入しない)と、できれば要件(満たせればよい)を分けることです。
例であれば、次のように整理できます。
| 要望 |
区分 |
理由 |
| 見積書を作成・管理できること |
前提 |
対象業務そのもの |
| 現行の見積書と同じ項目を出力できること |
マスト |
取引先に提出する書類のため、項目が欠けると業務が止まる |
| 担当範囲ごとに閲覧・編集の権限を分けられること |
マスト |
他部署の金額や条件が見えては困る |
| 外出先から承認できること |
できれば |
あれば承認待ちの時間が短くなる |
| 操作の履歴を確認できること |
できれば |
誰がいつ変更したかを追えるとよい |
検証の中でも、セキュリティに関わる要件が1つあるだけで、それが導入可否を左右するマスト要件になるケースがありました。こうした要件は、「満たせなければ、ほかがどれだけ良くても導入しない」と先に決めておくことが大切です。
このように区分を付けておくと、検証の途中で要望が増えても、判定の軸がぶれません。検証項目の洗い出しに使える4層のチェックリストは、後半の「PoC検証項目サンプル」の章で紹介します。
ステップ4:合否基準と判定者を決める
検証項目ごとに、「どうなっていたら合格か」と「誰がそれを判定するか」を決めます。
検証の中で、判定がスムーズに進んだのは、打合せの場で評価ポイントを言葉にしてもらい、判定する人を決めていたケースです。たとえば次のような形です。
- 現行のExcelと同じ入力・集計ができるか
(日常業務の担当者が確認)
- 複数の拠点や部署から問題なく使えるか
(各拠点の担当者が確認)
- 今の業務の進め方や操作の感覚を、大きく変えずに済むか
(現場の担当者が確認)
そのうえで、「現行の業務を最もよく知る人が画面を確認してから、次の段階に進むかを判断する」といった判定の手順も決めておきます。
前の章で見たとおり、ヒアリングシートの段階では評価指標を書けていた企業はありませんでした。しかし、評価ポイントを打合せの場で言葉にしてもらい、判定する人を指名しておくだけで、PoCは「試しただけ」で終わりにくくなります。
ステップ5:デモストーリーを組み、検証しない部分は「仮置き」と明記する
検証項目が決まったら、実際の画面で何をどの順番で見せるかという「デモストーリー」を組みます。例であれば、次のような流れになります。
| STEP |
内容 |
扱い |
| 1 |
取引先から見積の依頼を受け付ける |
システムの外(既存の受付方法のまま) |
| 2 |
顧客・案件の情報を登録する |
検証する |
| 3 |
見積を作成する |
検証する |
| 4 |
見積を承認する |
検証する |
| 5 |
見積書を出力する |
帳票ツールとの連携は「連携した想定」で進める |
| 6 |
受注を登録する |
検証する |
注目していただきたいのはSTEP5です。PoCの段階では、外部のツールとの連携までは組んでいないことがよくあります。その場合は、「今回は連携した想定で進めます」とあらかじめ明記したうえでストーリーを流します。
PoCでは、すべてを本番と同じ状態で動かす必要はありません。大切なのは、どこが実際に動いていて、どこが仮置きなのかを、見る人全員が分かっている状態にすることです。仮置きの部分を黙って見せてしまうと、「全部できる」という誤解が生まれ、導入後に「聞いていた話と違う」という事態につながります。
ステップ6:残課題を記録し、判定会議で次の段階を決める
検証を終えたら、分かったことと、分からなかったこと(残課題)を記録します。残課題は「失敗」ではなく、次の段階で検討すべき論点の一覧です。検証でよく見られた残課題は、後半の「PoCで見つかった想定外」の章で紹介します。
記録がそろったら、判定会議を開いて、Go(進める)/条件付きGo(条件を満たせば進める)/No-Go(見送る)を決めます。判定会議の進め方は、記事の後半で説明します。
判定がGoになった後は、検証で確かめた内容を要件定義書にまとめる段階に入ります。要件定義書の書き方や、決まらない項目の管理方法は、要件定義書の必要項目と書き方で詳しく解説しています。