まず用語を整理します。ここを曖昧にしたままだと、「対策を打ったつもりが、実は何も打てていなかった」という事態が起きます。
品質管理の国際規格をもとにしたJIS Q 9001:2015(品質マネジメントシステム-要求事項)では、箇条10.2に「不適合及び是正処置」が規定されています。「不適合」とは、決められた要求事項を満たしていない状態のこと。製品の規格外れ、手順違反、書類の不備などが含まれます。
修正・是正処置・予防処置の違い
| 用語 |
対象 |
目的 |
例 |
| 修正(応急処置) |
起きた不適合そのもの |
目の前の状態を正す |
不良品を選別・廃棄する、交換品を出す |
| 是正処置 |
不適合の原因 |
同じ原因で再発させない |
検査工程の順序を変える、設備の設定値を固定する |
| 予防処置(※) |
潜在的な不適合 |
発生そのものを防ぐ |
類似工程へ水平展開する |
この3つのうち、審査で最も多い指摘は、「修正」を「是正処置」として記録していることです。
「該当ロットを廃棄した」「担当者に注意喚起した」——これらはいずれも修正であって、是正処置ではありません。目の前の不良品はなくなりますが、次に同じ条件がそろえば、また同じ不良が出ます。是正処置として成立するには、原因そのものに手を打っていることが必要です。
※重要|ISO9001:2015に「予防処置」の条項はありません
上の表に※を付けた理由を説明します。2015年の改訂で、ISO9001から「予防処置」という独立した要求事項はなくなりました。旧版(ISO9001:2008)では箇条8.5.3に予防処置が規定されていましたが、2015年版ではこの条項が削除されています。
では予防の考え方がなくなったのかというと、そうではありません。箇条6.1「リスク及び機会への取組み」として、マネジメントシステム全体に組み込まれる形に変わりました。つまり、「問題が起きそうな箇所を事前に特定して手を打つ」という活動は、特別な手続きではなく、計画段階から日常的に行うべきものとして位置づけ直されたわけです。
実務上、これは次のことを意味します。
- 内部監査や外部審査で「予防処置の記録を見せてください」と求められることは、原則としてありません
- 代わりに問われるのは、リスクをどう特定し、どう対応を計画し、その有効性をどう評価したかです
- 「予防処置報告書」という様式を残している場合、規格対応としては不要ですが、社内の改善活動の記録として運用する分には差し支えありません
用語として「予防処置」を使うこと自体が誤りではありませんが、ISO9001:2015の要求事項として説明するのは誤りです。社内文書や説明資料でこの区別が曖昧になっているケースは多いので、一度確認しておくことをおすすめします。
是正処置の全体手順(6ステップ)
是正処置の全体像は、次の6段階です。自社の運用がどこまで整備されているかを確認するのに使ってください。
① 不適合の特定と応急処置(修正)
② 原因分析
③ 対策の立案と実施
④ 有効性の確認(レビュー)
⑤ 水平展開
⑥ 記録の保存
「水平展開」とは、ある工程で見つかった問題と同じ構造が他の工程にもないかを点検し、まだ問題が起きていない工程にも先回りして対策を適用することです。
本記事が重点的に扱うのは②④⑥の3つです。運用が形骸化するのは、ほぼこの3箇所に集中するためです。①③は目の前で困っている以上、誰かが必ず動きます。しかし②の原因分析は掘り下げが甘くなりやすく、④の有効性確認は様式に欄がなければ実施されず、⑥の保存は「保存すること」自体が目的になって使われなくなります。

補足|業種によって重なる制度
食品製造業の場合は、厚生労働省のHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理も関係します。HACCPとは、原材料から出荷までの各工程で危害要因を分析し、特に重要な工程を継続的に監視・記録する衛生管理の手法です。
厚生労働省が示す手順には、衛生管理の実施状況を記録して保存することに加え、衛生管理計画や手順書の効果を定期的に検証し、必要に応じて内容を見直すことが含まれています。記録を残すだけでは足りず、効果を振り返る工程まで求められている、ということです。この点は、後述する「有効性レビュー」と直結します。