ここからは、外装リフォームの見積業務を想定して設計した、データ構造の中身を見ていきます。最初の段階で対象にしたのは、案件管理、複数の見積の作成、見積書のPDF出力という基本の流れです。

案件管理トランと見積管理トランの2層構成
設計の中心は、2本のトランです。トランとは、日々の業務で発生するデータを登録する表のことです。
親データ:「案件管理トラン」(全18項目)
1件の案件につき、1つのデータ(レコード)を作成します。案件番号はシステムが自動で割り振るため、重複することのない固有の番号(ユニークキー)となります。
そのほか、受付日、お客様のお名前、ご住所、ご連絡先、施工先住所、元請、窓口、現地調査の担当者と日付、工事担当者、成否、着工日、完工予定日、完工日、備考といった情報を管理します。
案件の進捗状況は、「ステータス」という項目で管理します。「受付・現調中・見積中・商談中・成約・施工中・完工・失注」という8段階から選択する仕組みです。『課題の整理』の章で課題として挙げた「案件の途中の状態が把握できない」という問題は、スタッフ全員がこの8段階を共通の認識で運用することによって解決に導きます。
子データ:「見積管理トラン」(全27項目)
1件の案件に対して、必要な数だけいくつでも見積もりデータを作成することができます。
親である案件管理の画面には「見積管理」という関連データ(サブレコード)の項目があり、そこからその案件に紐づく見積もりを一覧でスムーズに確認できるようになっています。
これは、お客様に複数のプランを並べて提案するという「外装リフォーム」ならではの業務の流れを、そのまま直感的なデータの形に反映させた構造です。

案件管理トランの入力画面(ステータス8段階と、紐づく見積の一覧)

入力を減らす参照方式の使い分け
見積管理トランでは、案件番号を「トラン参照」で親とつなぎます。案件番号を選ぶと、顧客名、顧客住所、顧客連絡先、元請、窓口が、オートコンプリートで親のレコードから入ります。台帳から見積用のファイルへ写す作業は、ここでなくなります。
一方、見積名、工事名、工事場所、見積日、提案日、外壁と屋根の仕様は、見積ごとに変わりうるため、文字列や日付として見積側で持ちます。たとえば工事場所は、施工先住所と同じであることが多いものの、見積書に書く表記を調整したい場合があるため、あえて参照にしていません。「親から引けるものは引き、見積ごとに変わるものは子で持つ」という線引きが、この設計の要です。

見積管理トランの入力画面(案件番号を選ぶと顧客情報が自動で入る)
項目の型と桁数の決め方
見積管理トランの金額の項目は、原価、売価、見積合計金額、消費税額の4つです。いずれも整数で持ち、3桁区切りと円マークを付けて表示します。保証年数は外壁、屋根、付帯部の3つを整数で持ち、次回の塗り替えの目安も整数で持ちます。部位ごとに保証年数が異なる外装リフォームの見積書を、そのまま表現するための分け方です。
トラン項目例(設計判断が読み取れる項目に絞って掲載)
| 分類 |
名称 |
代表項目 |
項目タイプ |
桁数/値域 |
| 親トラン |
案件管理トラン |
案件番号 |
自動採番 |
ユニークキー(重複不可) |
| 親トラン |
案件管理トラン |
ステータス |
選択文字参照 |
受付/現調中/見積中/商談中/成約/施工中/完工/失注の8値 |
| 親トラン |
案件管理トラン |
成否 |
選択文字参照 |
-/×/〇の3値 |
| 親トラン |
案件管理トラン |
見積管理 |
サブレコード |
紐づく見積を一覧表示 |
| 親トラン |
案件管理トラン |
元請・窓口・施工担当 |
文字列 |
マスタ化を検討中 |
| 子トラン |
見積管理トラン |
見積番号 |
自動採番 |
6桁・ユニークキー |
| 子トラン |
見積管理トラン |
案件番号 |
トラン参照 |
案件管理トランと紐づけ |
| 子トラン |
見積管理トラン |
顧客名・顧客住所・顧客連絡先 |
トラン参照 |
オートコンプリートで親から取得 |
| 子トラン |
見積管理トラン |
原価・売価・見積合計金額・消費税額 |
整数 |
3桁区切り、円マーク表示 |
| 子トラン |
見積管理トラン |
外壁・屋根・付帯部の保証年数 |
整数 |
年数(部位ごとに保持) |
| 子トラン |
見積管理トラン |
採用フラグ/PDF作成フラグ |
選択文字参照 |
-/×/〇の3値(PDF作成フラグは帳票作成のトリガー) |
出典:外装リフォームの見積業務を想定した設計検討をもとにSlopebase編集部が作成
採用フラグとPDF作成フラグで帳票出力につなぐ
見積管理トランには、2つのフラグを置いています。「採用フラグ」は、複数のプランのうち、どれで契約したかを示す項目です。値は「-」「×」「〇」の3つから選びます。どのプランを提示し、どれが採用されたのかを、ファイル名ではなくデータで残せます。
「PDF作成フラグ」は、見積書を作るきっかけになる項目です。値を「〇」にすると、そのレコードの登録内容が帳票のテンプレートに差し込まれ、見積書と工事費の内訳書がPDFとして出力される構成です。帳票の出力には、Slopebaseと外部の帳票ツールとの連携を使います。

1件の案件に紐づく見積プランの一覧と採用フラグ

PDF作成フラグをきっかけに出力した見積書のプレビュー(検証段階の構成)
スコープ外とした範囲
最初の段階では、発注、リフォームの工事管理、完工後の保証書、計上と請求の確認をスコープ外にしました。案件管理トランには着工日や完工日の項目を置いていますが、施工店への発注書、保証書、仕入伝票といった帳票の管理は、次の段階で項目とステータスを追加する前提です。元請側の案件共有ツールとの連携、承認フロー、マスタの運用も同じ扱いです。
線を引いた基準は、「いまのExcelで最も負荷が高く、毎回の転記が発生している部分から確かめる」ことでした。案件管理と見積管理がつながらなければ、後ろの工程を載せても転記は残るからです。
自動化を見送った箇所とその判断理由
システムの設計過程において、あえて自動化を見送った箇所が3つあります。
- 見積書のフォーマットを固定様式にすること
- 取引先(元請け・窓口・施工店)のマスタ化
- 重複依頼(同一施主・同一工事内容)の自動検知
それぞれの判断理由は以下の通りです。
1つ目は、「見積書のフォーマットをパックごとの固定様式にすること」です。
外装リフォームの見積もりは、あらかじめ決まったパック内容で案内することが多いものの、実際にはお客様に合わせて中身を細かく調整するケースも少なくありません。また、案件によってページ数が変動することや、そもそも元請け企業から指定された見積書の様式がある場合は、自社の判断でフォーマットを変更することができません。
そのため、システム上にパック数分の帳票をあらかじめ用意する形はとりませんでした。まずは実際の帳票パターンを収集し、その上で最適な出力方法を検討する方針としています。様式によっては、見積書の出力機能のみをあえてシステム化せず、手作業(システム外)に残すという選択肢も視野に入れています。
2つ目は、「元請け・窓口・施工店のマスタ(一覧)化」です。
設計書の備考欄には「マスタ化を検討」と記載しつつも、初期段階ではあえてマスタを作らず、名称を直接テキストで入力して保持する形をとりました。
もちろん、あらかじめ登録した一覧から選択する仕組みにしたほうがデータの表記揺れは防げます。しかし、開発の初期段階では「まずはシステムを通じた業務の全体フローがスムーズに回るかどうか」を検証することを最優先としたため、今回は見送る判断をしました。
3つ目は、「同じ施主様から同じ工事内容で、別々の施工店を経由して見積もり依頼が届いた際の自動検知」です。
システム上で案件番号のような固有のキー(ユニークキー)を設け、重複登録をシステム的に禁止する方法もありますが、これは実際の業務運用にはそぐわないと判断しました。また、依頼が届くたびに過去のデータを検索して手動でチェックする運用も検討しましたが、業務上の負担が大きく長続きしないと考えました。
現段階では自動化を見送ったものの、この「重複依頼の検知」については、今後の解決すべき課題として認識しています。