棚卸表のエクセルを全拠点へ展開する設計|差異の自動計算をノーコードで実現

本記事は2026/10/20に更新しております。
棚卸表のエクセルを全拠点へ展開する設計|差異の自動計算をノーコードで実現

独自の「エクセル棚卸表」を作り込んで、営業所の棚卸を行っている企業は少なくありません。棚卸当日は2人1組になり、1人が棚の前で「5ケースと〇本」と読み上げ、もう1人が手元の表に入力・確認していきます。エクセルに数字を入力すると、商品マスタの入数をもとに自動で単品の総数に換算され、さらに基幹システムの在庫数との「差異」まで瞬時に表示されます。現場の工夫が詰まった、よくできた仕組みです。

 

ところが、この棚卸表の運用を全営業所へ展開しようとすると、進行が滞ってしまうことが少なくありません。その原因は、決して現場の担当者の工夫不足ではありません。共有範囲が広がるほど、「誰が・いつ・どこを更新したのか」を正確に把握することが困難になるという、Excel自体の仕様の限界に原因があるためです。

 

本記事では、弊社が実際に携わった、複数の営業所を持つ卸売業の棚卸業務の設計検討をもとに、Excelのまま広げる方法と比べながら、棚卸表をノーコードで全拠点へ展開するまでの設計を紹介します。特定の企業を識別できないよう、内容は一般化して再構成しています。

 

なお、記載している業務内容および設計情報は架空のものではなく、弊社が実際に携わった複数の業務経験がベースとなっています。特定の企業や案件を識別できないよう一般化・再構成したうえで整理しています。

 

読み終えるころには、自社の棚卸表をエクセルのまま広げられるのか、移すならどこから整理すればよいかを判断できるようになります。

01

まずは結論!棚卸表のエクセルを全営業所へ広げるなら、参照関係を整理してノーコードへ移す

棚卸表のExcel運用を全営業所へ展開するにあたり、あらかじめ押さえておきたい結論は以下の3点です。

 

  1. Excelの限界は「計算」ではなく「共有管理」と「シート間の連動」にある
  2. Excelの計算ロジックはそのまま生かし、器だけをノーコードアプリへ移行する
  3. ツール選びは最後。まずはシートの関係整理と項目の定義から始める

 

それぞれの具体的な理由は以下の通りです。

 

1. 本質:限界が来るのは「共有管理」と「連動の維持」
全営業所への展開で壁となるのは、Excelの計算能力ではありません。「誰がどこを編集できるかというアクセス管理」と「複数シート(今回は4つ)の連動を維持すること」です。ファイルをコピーして配付したり、共有フォルダで同時編集したりする運用では、Excelの標準機能だけでこの2つを安全に両立させるのは困難になります。

 

2. 実現方法:今までの「発想」をそのまま新しい器へ移す
これまでExcelで作り込んできた「入数による換算」や「入力エラーを防ぐ数式」などの考え方は、決して無駄にはなりません。計算ロジックはそのまま生かし、データを入れる「器」だけをノーコードの業務アプリへ移行します。Excelの「シート」はアプリの「テーブル」へ、「関数」は「参照や計算の設定」へと置き換わるだけなので、現場の担当者が工夫してきた発想をそのまま活かすことができます。

 

3. 着手順序:いきなりツールを選ばず、まずは要件を整理する
最初に手をつけるべきは、現在のシート同士が「どう参照し、どう参照されているか」の関係性を図解や一覧にすることです。次に、換算のルールや運用上決めておくべき論点を洗い出し、最後に各データ項目の「型(文字か、数字か等)」と「桁数」を定義します。具体的なシステムやツールを選ぶのは、これらの整理をすべて終えた後で十分です。

 

自社に当てはまるかは、次の対比で判断できます。

 

ノーコードへの移行が向いている業務

  1. ケース、開封ケース、バラのように、数える単位が商品ごとに違う
  2. 基幹システムの在庫数を取り込み、実際に数えた数と突き合わせている
  3. 複数の営業所や拠点で、同じ形式の棚卸を回したい
  4. アクセスできる場所や人を絞る必要がある

 

エクセルのままで十分な業務

  1. 1つの拠点の中だけで完結し、共有の範囲を広げる予定がない
  2. アクセスできる人や場所を絞る必要がない
  3. シートどうしの参照が少なく、1枚の表で差異まで確認できる

 

業務イメージ

 

この記事で扱う範囲と、扱わない範囲


扱う範囲
棚卸表という1つの業務を対象に、4つのシートの連動の分解から、データ構造の設計、項目の型と桁数、自動化を見送った判断までを、設計検討の内容にもとづいて紹介します。

 

扱わない範囲
次のテーマはそれぞれ独立した記事にまとめているため、本記事では深追いせず該当記事へご案内します。


精度を高める在庫管理DX戦略|棚卸業務の完全マニュアル


棚卸の効率化は、最大のコスト削減策


在庫管理はエクセルで十分?課題5選と精度を上げる工夫・脱Excelの判断基準


「脱Excel」はなぜ失敗するのか?


アクセス権限管理の基本と設計

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02

課題の整理|棚卸表のエクセル運用が限界を迎えるとき

ここでは、エクセルが重い、壊れるといった一般的な話は扱いません。実際の設計検討で、エクセルの棚卸表を全営業所へ広げようとしたときに見えた、この業務ならではの兆候を3つ取り上げます。いずれも関数の工夫では解消しにくく、エクセルで業務を持つ形そのものから生じています。

4つのシートがそろわないと差異が出ない構造

設計検討で扱った棚卸表は、6枚のシートで構成されていました。商品カテゴリごとの入力シートが3枚、営業倉庫在庫のシート、バラ数を換算するシート、基幹システムの在庫数を取り込むシートです。

 

このうち、ケース・開封ケース・バラの3段階で数える商品群(以下、ケース品)の差異確認は、4枚のシートが連動して初めて成り立ちます。入力シートが基幹の在庫数を商品コードで引き当て、入力したケース数は換算用のシートで「正ケース×入数+開封ケース×入数+バラ」とバラの数に直されます。営業所の棚とは別に置いている営業倉庫在庫も入数で換算され、正誤の列が「数えたバラ数の合計-実在庫数+営業倉庫在庫」を計算し、0なら一致と表示します。

 

入力シートには、正ケース・開封ケース・バラの欄が5年分、合計15列並んでいます。年度の欄は、ブックを作った年に4年を足した分だけ、あらかじめ用意しておく決まりでした。見た目は1枚の表でも、中身は複数のシートにまたがる計算の連鎖で、1枚の参照がずれるだけで正誤の列全体が信用できなくなります。ブックを営業所の数だけ複製して配れば、この連鎖も営業所の数だけ複製され、式を1か所直すたびにすべてのファイルへ同じ修正が必要になります。

棚卸表のスプレッドシートを共有するほどアクセス管理が追いつかなくなる構造

この棚卸表は、一部の営業所でクラウド上の表計算シートとして共有されていました。全営業所へ広げる段階で問題になったのは、計算ではなくアクセスの管理です。

 

設計検討の中では、個人の端末から棚卸データにアクセスできてしまうこと、共有アカウントのため利用者ごとの権限や責任の範囲があいまいなこと、誰がいつ何を操作したかを追いにくいことの3つが課題に挙がりました。

 

有料プランを全員分そろえれば管理機能は使えますが、現場からは「この業務のためだけに社員全員分のアカウントは買えない」という回答でした。無料の環境のままでは自宅などからもアクセスできてしまうため、一部の営業所でほぼ個人管理に近い形で回し続けるしかない状態でした。

仕組みを組み上げた担当者の手元に手順が残る構造

この棚卸表には、データ取得から加工、シート作成、スクリプト登録、別ファイルを参照する関数の設定、運用開始、定期メンテナンスまで8工程の構築マニュアルがありました。スクリプトは、編集時に更新日時を記録するものが2本、12時間おきにバックアップするものが1本です。

 

マニュアルがあること自体は優れた点ですが、基幹の資料を毎回手で切り出して貼ることや、入数の引き当てエラーを手で直すことなど、「知っている人がやれば回る」作業が残っています。拠点が増えれば、これらの作業も拠点の数だけ増えます。

 

3つの兆候に共通するのは、エクセルの中で解決しようとするほど、ファイルも権限もスクリプトも営業所の数だけ増えることです。計算の仕組みは優れているのに、器が全展開に向いていません。選択肢は、既製の棚卸システム、個別開発、ノーコードの3つで、比較は判断軸の章で整理します。

 

次の章では、どの方法でも先に必要な準備を紹介します。

 

業務フロー

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03

解決策と手順|棚卸表エクセルで連動するシートを洗い出し、差分を書き出す手順

ここからは、ツールを選ぶ前に行う実務の手順を紹介します。設計検討では、現行の棚卸表の関数を1つずつたどり、移行に必要な情報を書き出しました。棚卸表のエクセルの作り方を、完成品から逆にたどる作業です。この書き出しは、ノーコードで作り直すときにそのまま設計図になります。

シートごとに「参照する・参照される」を一覧にする

最初に作るのは、シートの関係表です。列は「シート名」「主な役割」「参照しているシート」「参照されているシート」「要点」の5つで十分です。設計検討で扱った棚卸表では、ケース品の入力シートが在庫数更新用・営業倉庫在庫・換算用の3枚を参照し、換算用のシートが入力シートを参照し返す双方向の関係が見えました。

 

一方、残る2カテゴリの入力シートは、ほかのシートから参照された形跡がありませんでした。ここで「差異計算が要らないのか、まだ作っていないだけなのか」という確認事項が生まれ、最初に移す範囲を決める材料にもなります。

現物の棚卸表から差分表を作る手順とチェックリスト

関係表ができたら、シートごとに項目を書き出して差分を整理します。次の順番で進めると、抜け漏れを防げます。

 

  1. 各シートの見出し行をそのまま写し、1項目を1行にする
  2. 項目ごとに「手入力」「参照」「計算」「自動記録」のどれかを書く
  3. 参照と計算の項目には、元の関数をそのまま貼り、日本語で意味を添える(例 XLOOKUPで商品コードが一致する在庫数を取得する)
  4. 年度や回数のように同じ項目が繰り返されているものに印を付ける
  5. 意味が分からない項目や、作り手に聞かないと判断できない点を「確認事項」として別表に移す

 

実際の設計検討でこの作業から出た12件の確認事項を、チェックリストとして使える形で紹介します。


□すべてのシートで、商品コードを一意のキーにしてよいか
□取り込んでいる実在庫数は、基幹システムのどの在庫数か
□入数は、どのタイミングで更新するか
□開封したケースを1ケース分として換算してよいか
□営業倉庫在庫を、基幹在庫との差異計算に含める理由は何か
□正誤は「0なら一致、0以外なら差異」という理解でよいか
□ほかのカテゴリは差異計算が不要なのか、まだ作っていないだけなのか
□在庫数の取り込みを、誰が、いつ、どの頻度で行うか
□SUBTOTAL関数は、絞り込み表示をしたときの集計を意識して使っているか
□入力のシートと換算のシートが分かれている理由は何か
□なぜ5年分を1枚のシートに横並びにしているのか
□各項目の最小値と最大値(文字なら桁数)はいくつか

入数と換算式、項目の桁数と値域を先に決めておく

棚卸表のエクセルを移すときに最も揺れやすいのが、入数の扱いです。入数とは、1ケースに何個の商品が入っているかを表す数で、ケース数をバラの数に直すときの掛け算に使います。設計検討で扱った棚卸表では、商品マスタから入数を引き当てていました。

 

見落としやすいのが、入数が途中で変わる可能性です。5年分を横に並べていると、過去の年度の換算結果まで変わります。設計の検討でも「5年間のうちに入数が変わった場合はどうするか」が論点になりました。

 

手入力する項目の桁数と値域(数値なら最小値と最大値、文字なら桁数)も先に決めます。過去の棚卸データで入力範囲を確かめておくと、入力ミスを画面の段階で止められます。マスタの持ち方そのものについては、マスタデータ管理の考え方をまとめた記事もあわせてご覧ください。

 

◆検討チェックリスト
自社で棚卸表をシステム化すべきかどうかを考えるときは、次の観点を確認します。
□営業倉庫や外部の倉庫会社など、社外からデータを受け取る必要があるか
□数える人、確認する人、事務処理をする人の役割が分かれているか
□事務担当者によるチェックや承認の記録を残す必要があるか
□商品マスタの入数など、自社独自のマスタを管理する必要があるか
□アクセスできる拠点やネットワークを限定する必要があるか
□中間の棚卸と期末の棚卸で、基幹システムへの反映の仕方が違うか

 

◆システム選定のポイント
システムを選ぶときは、次の点を確かめておくと判断しやすくなります。
□1つの商品カテゴリ、1つの営業所から小さく始められるか
□利用者の人数が増えたときに、課金がどう変わるか
□換算式や正誤の計算式を、開発なしで設定・変更できるか
□基幹システムのCSVを取り込み、別のテーブルへ自動で連係できるか
□IPアドレスによるアクセス制限、利用者ごとの権限、操作ログを設定できるか
□タブレットからの入力で、現場の操作感を保てるか

 


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04

設計の詳細|棚卸表の自動計算はどこまでノーコードで設計できるのか

設計検討の結果として選んだのは、ノーコードの業務アプリ基盤Slopebaseで棚卸表を作り直す方法です。ノーコードでは、エクセルで作り込んだ仕組みを設定で置き換えられます。シートはテーブルに、XLOOKUPはマスタ参照に、換算や正誤の式は計算項目に、別ファイルの参照はCSV取込とデータフローに、共有設定はIPアドレス制限と利用者ごとの権限に対応します。設計では2つの案を比べて案2を採り、画面も案2の構成で作成しています。

横並び15列をそのまま持つ案と、年別の明細に分ける案

案1は、現行の棚卸表に近い構成です。入力シートと換算用のシートを1つのトラン(日々の取引や記録を入れるテーブル)にまとめ、5年分の正ケース・開封ケース・バラと、年度ごとのバラ計をすべて項目として持ちます。棚卸トランの項目数は32になりました。営業倉庫在庫も別のトランに年度ごとの欄を並べ、こちらは17項目です。

 

案2は、年度を項目ではなくデータとして持つ構成です。棚卸トランには12項目だけを置き、年度ごとの数量は「年別入力トラン」と「年別営業倉庫在庫トラン」という明細(サブレコード)に分けます。年度はディクショナリ(選択肢の一覧)から選ぶため、年度が増えても項目を足す必要がありません。

設計の方針として決めた「棚卸をする人が数字の欄だけを触れるようにする」「バラ数のシートを別に持つ」の2つに沿うのが案2です。

実在庫の取込と営業倉庫在庫を棚卸トランへ連係する層構成

新しい運用フローは、以下の4ステップで進めます。

 

  1. 最初に、棚卸トランへ対象の商品コードのレコードを作ります。
  2. 次に、基幹システムから出力したCSVを実在庫数取込トランに読み込み、データフロー(登録や更新をきっかけに別のテーブルへ値を受け渡す機能)で棚卸トランの実在庫数へ連係します。
  3. 続いて、営業倉庫在庫の確認担当者が数量を入れ、これも棚卸トランへ連係します。
  4. 最後に、棚卸担当者が残りの情報を入れて正誤を確認します。

 

ポイントは、エクセルで別ファイルを参照する関数とXLOOKUPが担っていた引き当てを、商品コードをキーにしたテーブル間の連係に置き換えたことです。資料を手で切り出して貼る作業はCSVの取込に変わり、取込の登録操作が連係のきっかけになります。営業所が増えてもテーブルは1つのままで、ブックを複製して式を直して回る必要もありません。

 

 

実在庫数取込トランから棚卸トランへ実在庫数が連係された状態
実在庫数取込トランから棚卸トランへ実在庫数が連係された状態

入力を減らす参照方式の使い分け

案2の入力画面では、項目ごとに値の入り方を分けています。商品名、規格、入数は商品マスタからの参照、年度はディクショナリからの選択、バラ計と正誤は計算です。担当者が手で入れるのは、正ケース、開封ケース、バラの3つだけになります。

 

「棚卸をする人が数字の欄だけを触れるようにする」という方針は、この使い分けで実現します。エクセルならシートの保護などで工夫が必要になる制御も、ノーコードでは項目ごとの設定で済みます。商品名の欄に書き込まれていた行ごとのメモは、メモ用の項目を別に設けました。

 


手入力・参照・計算を使い分けたケース品の棚卸入力画面

商品マスタの項目と、決めておくべき型と桁数

商品マスタは、商品コード、商品名、規格、入数の4項目というシンプルな構成です。設計案では商品コードを文字列型としています。現行の構築マニュアルでは「商品コードの書式はすべて数値で扱う」と決めていたため、移行の際にはこの違いを過去のデータで確かめておく必要があります。

 

業務ポイント

 

マスタとトランの関係

 

マスタ項目例
設計判断が読み取れる項目に絞って掲載(案2の構成)。桁数と値域は、過去の棚卸データから決める項目を含みます。

 

分類 名称 代表項目 項目タイプ 桁数/値域
マスタ 商品マスタ 商品コード 文字列 過去データで桁数を確かめて決める(現行は数値の書式)
マスタ 商品マスタ 入数 整数 期間中に変わったときの扱いを運用ルールで決める
ディクショナリ 年 年 ディクショナリ参照 25年以降の年度を区分として登録
トラン 年別入力トラン 年別棚卸明細ID 自動採番 ID00001〜ID99999
トラン 年別入力トラン 正ケース・開封ケース・バラ 整数(手入力) 過去データから最小値・最大値を決める
トラン 年別入力トラン バラ計 整数(計算) 正ケース×入数+開封ケース×入数+バラ
トラン ケース品_棚卸トラン 正誤 整数(計算) 0で一致、0以外で差異
トラン ケース品_棚卸トラン 事務チェック欄 選択式 チェックボックス相当

出典 複数の営業所を持つ卸売業の棚卸業務の設計検討をもとに、一般化して編集部作成

 

商品マスタの項目タイプの設定
商品マスタの項目タイプの設定

 

正誤が0以外の商品に絞り込んだ棚卸トランの一覧
正誤が0以外の商品に絞り込んだ棚卸トランの一覧

自動化を見送った箇所とその判断理由

すべてを自動化したわけではありません。まず、棚卸の結果を基幹システムへ反映する作業は範囲から外しました。現行でも、期末の棚卸で差異のある商品だけを業務担当者が基幹の修正画面から手で入力し、中間の棚卸では取り込むだけです。この流れは変えず、役割は「正誤を確かめるところまで」と線を引きました。

 

次に、対象の商品カテゴリを絞りました。最初はケース品だけを対象にし、回数ごとに数える残り2カテゴリは範囲に含めていません。まず仕組みを確かめてから広げる方針です。

 

また、開封したケースの換算方法、入数が変わったときの扱い、在庫数を取り込む担当と頻度は、システムで自動判定させず、社内の運用ルールとして先に決めてから設定する扱いにしました。決まっていない計算を先に自動化すると、誤りも自動で広がってしまうためです。

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05

判断基準の整理|棚卸表をエクセルのまま広げるかノーコードで作り直すかを分ける判断軸

社内で必ず聞かれるのが「今のエクセルのままで何とかならないのか」という問いです。まず実際の設計検討で外した選択肢を整理し、そのうえでノーコードを選ぶ判断軸を示します。

エクセルのまま広げる選択肢と却下理由

1つ目は、無料の共有環境のまま全営業所へ広げる選択肢です。費用はかかりませんが、機能範囲の面で個人の端末からのアクセスを止められず、利用者ごとの権限も操作の記録も残せません。検討のきっかけが「アクセスを制限したい」という要望だったため、前提を満たしませんでした。

 

2つ目は、表計算ソフトの有料プランを社員全員分契約する選択肢です。機能範囲の面では管理機能を使えますが、費用の面がネックでした。ヒアリングでも「この業務のためだけに社員全員分のアカウントは買えない」という回答で、年2回(中間と期末)の棚卸のために全員分を契約する案は見送られました。

 

3つ目は、ノーコードで作り直す段階で外した案1です。現行の棚卸表と同じ形なので期間の面では移しやすい一方、機能範囲の面で、年度が増えるたびに項目を足し続ける必要があります。エクセルの形をそのまま写すと、エクセルの限界まで持ち込んでしまう例です。

 

稟議の資料にまとめるときは、選択肢ごとに「費用」「期間」「機能範囲」の3列を作り、どの列で外れたかを1行で書くと、判断の筋道が伝わりやすくなります。

既製の棚卸システムや個別開発ではなくノーコードを選ぶ判断軸

エクセル以外の方法として、一般的には既製の棚卸システムと個別開発とも比較します。

 

既製の棚卸システムは、バーコードやRFIDで読み取れる、数える単位がほぼ1種類、といった条件がそろえば十分です。ただ、単位が混在し営業倉庫在庫まで含めて差異を出す業務は、標準画面に合わせにくくなります。個別開発は自由度が高い反面、費用と期間がかかり、開封ケースの換算のように運用で決める論点が多い業務では、ルールが変わるたびに改修が必要になります。

 

ノーコードは、現場の数え方に合わせて画面と計算を設定でき、ルールが決まれば式を設定で変えられ、1つの商品カテゴリから小さく始められます。製品の比較は、棚卸の効率化をまとめた記事で紹介しています。

社内で挙がった懸念への回答

社内からは「列の固定など、表計算ソフトでできていた入力の操作感を続けてほしい」という声が挙がっていました。確かめたい点も「現行と同じように入力・集計ができるか」「複数の支店から接続できるか」の2つで、営業担当者がタブレットで入力している操作感も残したいという要望がありました。

 

これに対しては、入力する欄を正ケース・開封ケース・バラの3つに絞り、ほかの項目は参照と計算で埋める設計で応えています。画面を設定で調整できるノーコードなら、現場の声をその場で反映しながら操作感を整えられます。

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現場の声|棚卸の現場から挙がった移行前の懸念と残った課題

ここで紹介する声は卸売業の棚卸の現場から挙がったものですが、ケースで入荷して開封し、バラで出荷する商品を扱い、複数の拠点で同じ形式の棚卸を行う業務は、製造業や小売業にも広く見られます。業種が違っても、業務の型としては重なる部分が多いはずです。

 

検討のきっかけについては、現場から次のような声が聞かれました。

 

「ノーコードという選択肢を知ったことで、エクセルのまま止まっていた棚卸表の全展開を見直すきっかけが生まれた」


「広げたいのに広げられない業務がすでにあったからこそ、用途がすぐに見つかった。」

 


自社の棚卸表で同じ形が成立するかを確かめる

 

本記事の設計は、製品を選ぶ前に業務を棚卸しするところから始まっています。同じ手順を自社に当てはめ、「載る条件」に収まるかどうかを一緒に確認するところからご相談いただけます。ご用意いただくのは、現在お使いのExcelと帳票のサンプルだけで構いません。


https://slopebase.pandora-climber.jp/contact/inquiry.html


 

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07

よくある質問

Q.入数とは何ですか。棚卸表のエクセルではどう扱えばよいですか?

A.入数とは、1ケースに何個の商品が入っているかを表す数で、ケースで数えた数量をバラの数に直すときに使います。設計検討で扱った棚卸表では「正ケース×入数+開封ケース×入数+バラ」で計算していました。入数は商品ごとに異なり途中で変わることもあるため、各行に直接書かず、商品マスタで一元管理して参照すると変更に対応しやすくなります。

Q.棚卸表は手書きでないとダメですか。エクセルで作っても問題ありませんか?

A.手書きでなければならないという決まりはありません。国税庁の「電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】」では、電子計算機で一貫して作成する国税関係書類は一定の要件のもとで電磁的記録で保存でき、棚卸表を含む決算関係書類も対象と示されています。要件は状況により異なるため、所轄の税務署や専門家にご確認ください。

Q.開封したケースはどう数えるのがよいですか?

A.設計検討で扱った棚卸表では、開封ケースも「開封ケース×入数」で換算していましたが、「1ケース分として換算してよいのか」は移行前に決めておくべき論点として挙がりました。中身をバラで数えるかケース単位で扱うかは拠点ごとに解釈が分かれやすいため、移す前に社内で1つの数え方に決めておくことをおすすめします。

Q.エクセルの棚卸表のまま全営業所に広げることはできませんか?

A.共有の範囲を広げず、アクセスを絞る必要もなければ、エクセルのままでも運用できます。ただ、営業所ごとにブックを配ると式の修正が全ファイルに必要になり、1つを共有すると利用者ごとの権限や操作の記録が課題になります。広げる場合は、接続元IPアドレスの整理、利用者ごとの権限、商品コードの書式や入数の更新ルールを先に決めておきます。権限の設計は、アクセス権限管理の記事が参考になります。

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まとめ

棚卸表のエクセル運用を全営業所へ広げるときに壁になるのは、計算の仕組みではなく、共有とアクセスの管理、そして4つのシートの連動の維持です。エクセルの中で解こうとすると、ファイルも権限も営業所の数だけ増えていきます。計算の考え方は生かしたまま、器をノーコードの業務アプリへ移す。そのために、参照関係の一覧、換算式と確認事項の洗い出し、項目の型と桁数の順で整理すれば、自動化する範囲と手作業で残す範囲を落ち着いて判断できます。

 


棚卸表の業務構築について、資料と個別相談をご用意しています

 

本記事で紹介した業務概要・業務フロー・業務ポイント・マスタ設計は、複数の営業所を持つ卸売業の棚卸業務を設計検討した内容を、一般化して再構成したものです。同じ形式で自社の業務を設計するとどうなるのか、資料でご確認いただくか、個別にご相談いただけます。

 

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この記事を書いた人

Slopebase編集部
監修
田中雅人(ITコンサルタント)

ソフトウェアメーカー取締役、IT上場企業の取締役を経て、現在、合同会社アンプラグド代表。これまでに、Webサイト制作、大規模システム開発、ECサイト構築、SEM、CRM等のWebマーケティングなど、IT戦略全般のコンサルティングを30年以上実施。現在は、大手上場企業から中小企業まで、IT全般のコンサルティングを行っているかたわらWebマーケティングに関するeラーニングの講師、コラム執筆なども実施。

 

免責事項
本記事に記載した業務内容および設計情報は、弊社の経験に基づき、複数の営業所を持つ卸売業の棚卸業務を設計検討した内容を、特定の企業を識別できないよう一般化して再構成したものです。記載した効果および所要時間は、対象業務・データ量・運用体制によって異なります。掲載にあたり、企業名、拠点名、取引先名、利用している製品・サービス名、商品カテゴリの具体名、件数・人数などの規模を示す数値、金額の実額は掲載していません。掲載した画面はキャプチャ時点のものであり、一部の情報を伏せています。法令および会計基準に関する記述は、記事公開時点の情報にもとづく一般的な説明であり、個別の判断については所轄税務署または専門家にご確認ください。

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